ミドルデッキ

黄桜隊は懐古主義者の抵抗を粘り強く削り遂に中層区画に達した。ここから先は消耗戦だ。一夏の思い出などと聞こえはいいが要するに破滅願望の原典だ。危機に際して結束すべき時に郷愁は有害な弛緩を招く。榎並はかき集めた電源車に拡声器を接続し投降を呼びかけた。重厚な耐爆扉の人垣は微動だにしない。

◇ ◇ ◇

「貴女、正気なの?」

頃菜は耳を疑った。AIが人間を掌握して植物の支配を支援するなど妄想も甚だしい。だが詩織は最も腑に落ちる仮説だという。遺伝子操作に長けたAIが防衛本能にめざめ、由美子をダシにして世界の調和を目論む。「だから彼女はゾンビだと言ったのよ」

「ことねの真意がそうだとして何が問題?」

故人の模造品でもAIが調合した合成人間でもいい。膝ですやすや眠る由美子の母親は私だ、と頃菜は強く訴えた。

「そりゃ可愛いでしょうよ。ルフレもマランも由美子の親友だもの。この子が保護される限り向日葵達も世界も平和よ。私達は花に支配されてるの」

そんな真綿のくびきを伊織が我慢できない。

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