楽園解放

「黙って植物どもの支配を見逃すの?」

詩織は笑子に農園の自爆コードを要求した。バイオハザード対策として義務付けられている。

「共存できるわ」

「だったら、賢者酵素を全域に拡散する。人の闘争心を奪うよう調整した」

詩織はマランを取り出した。

「ご自由に」

社長はことねに命令を下した。

ごうん、と重厚な隔壁が開き、小柳農園を含む密閉空間政府の中枢部、ミドルデッキが解放された。そこかしこのモニタに醜い戦闘が再生され、温室に兵士が雪崩れ込んでくる。

「気でも狂ったの?」

動揺する詩織。

「狂ってるのはお前の方よ。辛い過去を人類の教訓としたい強迫観念に固執するあまり、自分の愚行を自覚できない」

笑子は詩織の自己撞着を指摘した。人々を穏やかにしてどうするのだ。

マランの隣にルフレの鉢が置かれた。

「もう勝負はついてるから。私達は周到に準備を重ねてきた」

頃菜が大出由美子の手を引いて、ルフレの前に座らせる。

「私…たち…ってどういう意味」

詩織は鉢植えと養母、里子、そして社長を順に見やる。嫌な予感がする。

「全員が同じ血筋だって知ってた? 因みに私の旧姓は大出」

「噓でしょ」

詩織には心当たりがあった。そもそもはことねのゾンビ発言だ。共有メモリに大量のヒトゲノムが登録されている。それも社長名義だ。

「ことねに由美子を創らせたのも、ポンプに入れたのも私。動機は言わずもがな」

「マラン欲しさに…貴女は命を何処まで弄ぶんですか」

詩織の叱責に社長は飄々と答えた。

「ルフレとマランは祖母の悲願だった。大出恵子は娘に逢いたがってたわ。せめて一言、詫びたいと」

由美子は家業の後継を嫌がった。それならば植物が対等の人権を持ち、共存共栄できる世界を築けばいい。そして地には平和を。

「その為に私はデザインされたというの?頃菜も由美子も」

みるみる詩織が蒼白する。

「そう。恵子は娑婆で必死に学んだの。贖罪を兼ねて。感染症が閉鎖空間への疎開を促した事も追い風になった。人類は温室育ちの道を歩むの。さぁ」

社長は手を差し伸べた。黄桜隊が詩織に銃を向ける。ルフレとマランがふわっと花粉を飛ばし、優しい空気が満ちていく。



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