一千年生きた怪物は、愛を知ることが出たのか?


※ 作者様のご要望により、こういう形式でレビューを書いています。


 まず一行目が素晴らしく、いっきに引き込まれます。
 が、二行目以降、「唐絵」に関する描写も解説もないため、イメージが湧きません。
 一行目が文として素晴らしいだけに、そこでちょっと止まる印象です。
 が、プロローグは最後まで読むと、一人の、永遠に生き続ける女性が存在するという予感を与えてくれるため、のちの物語に強い興味が湧きます。
 このプロローグがすごくいいのですが、前半の書き込みが少なく、唐絵のイメージが湧かない所が残念です。プロローグはあまり読まれないということで、わざと短くしたのかもしれませんが、そうであるならば元に戻した方がいいと感じます。
 「序章」のクオリティーは高いのですが、もうすこしヴォリュームがないと、あとの平安編と現代編のバランスが取れなくなるのではないでしょうか。


 まず平安編。異様にクオリティーが高いです。時代小説として当時の風習とか価値観のちがいがちゃんと描かれていて、雰囲気も完璧。もう平安時代にトリップできます。
 この平安編で十万文字書いても問題なく入賞、書籍化の可能性が大きいと思います。
 内容的に本屋で売っているレベル以上の小説だと思います。文句なしです。


 そして現代編。
 がらっと変わります。
 こちらはこちらで全然ちがうノリで、面白いと思いますが。
 前章の平安編が高クオリティーであっただけに、戸惑いとともに、素晴らしい宝物を失ってしまった気がして残念な気持ちになります。


 この一連の流れは、これがそういう物語であると読者につよくイメージづけるための序章が弱く、印象が薄いからだと思います。
 ただし、序章の完成度が低いとか、もっと読者をひきつけろとかいう内容的な問題ではなく、単純に文字数が少ないからではないでしょうか。

 そして、もうひとつ。現代編の入り。
 ここで、現代編と平安編が続いていることを読者に気づかせる何かの切っ掛けというか、そこを読者に思い出させるフックのようなものがあると嬉しかったと思います。

 とつぜん現代編になって読者は戸惑っているし、平安編のクオリティーがあまりにも高かったため、全体のバランスが悪く、読者はがっかりしていると思います。そこになにか、平安編と繋がっているという手掛かりのようなものがあると盛り上がったと思います。


 そして、現代編。
 おそらくここの前半で読者が一番読みたいのは、千年生きてきたモテ女のすごいテクニックです。具体的なことは分かりませんが、「遠くから見つめて、目が合ったらすぐにそらす」とかそういった、今日から使えるモテ・テクの紹介が欲しいです。
 が、それは書かれていないですね。

 おそらくモチに使わせるモテ・テクと、マロンが使うモテ・テクは別だと思います。
 前半で、ハウツー物顔負けの「モテ・テク」を紹介するのはこのパートでは最重要だと思うのですが、どうでしょうか。

 たとえば、『バカな高校生が東大に挑戦する』みたいな小説だったら、すごい家庭教師がすごい受験攻略法を出してきたりするじゃないですか。
 「古文の源氏物語攻略には『あさきゆめみし』を全巻読め」とか。
 これ、文法や単語が分からなくても、内容を知っていればかなり問題が解けるかららしいです。
 こういう「へー」が欲しいところ。


 本作ばかりではなく、作者さんの作品はどれも、描写力、執筆力が異様に高く、その力はプロ級です。しかも何でも書ける。それが逆に作用して、ファンタジーだったものが突然SFになったりします。

 結果として、パート、パートは凄いのに、全体としてちぐはぐな物語にできあがることがままあります。ただそれが、パートごとの完成度の高さから、ある一定のクオリティーにはなっているのも事実ですが、作品の面白さが、きちんと焦点を結んでいない印象がつねにあります。
 そこをクリアできれば、本作でいきなり大賞ということも十分あり得るのではないでしょうか。


 という感想をいだきつつ読み進めた第二部第三章。
 モチとマロンがネトゲに挑みます。マロンのダメっぷりがおかしくて、二人の立場の逆転と、おかしな名コンビ誕生が楽しい。が、冒頭のシリアスな平安編と、このパートの読者層が違うのでは?という疑問をもちつつも……。

 ネットゲームというステージも面白いのですが、じつはこのゲームものを書く時には、とても大事なことがあります。
 それはゲームのルールがどういうものか、きちんと読者に、事前に理解してもらう事。
 この『ニーズヘッドサーガ』の対戦なんですが、ルールと勝利条件に説明不足な部分があり、そこが少し気になります。
 そもそも戦場にプレイヤーは何人いるの?とか、ゲームの勝利条件はなんなの?とか多少疑問に思うのですが、マロンの作戦が楽しくて許す気になります。まあ、いいか、と。


 そして、迎える第三部。現代編。時間が動いています。
 ここでまたまた文体ががらっと変わって、これは作者様が得意なアラサー女性の一人称。突然のサスペンス調。すこしホラー風味も追加されます。

 第一部がマロンのルーツであるとするならば、第二部はマロンとモチの出会い。
 となると第三部はマロンとモチの再会となるはず。が、この再会というテーマが強く描かれていない気がします。なんかあっさり会っちゃって、そこが微妙に残念な気がします。

 もう少し引っ張るとか、彼の死の謎にマロンが絡んでいることから、なんとしても彼女を探し出そうとするとか、そこのテーマ性すなわち第一部と第二部を受けての引き込みが弱いかなーと。

 すなわち、第一部、第二部、それぞれに完成度が高く、単体としては良い出来なのですが、第三部まで通しての流れをみると、「一千年生きた女」という一貫したテーマの焦点が甘い気がして仕方ありません。

 愛を知らねば死ぬことの許されないマロンが、ラストにその愛を知る。その愛を教えるのはモチなのですが、全編を通した流れで、マロンはモチを愛したのでしょうか? なにを、どうして、いつ?

「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」と言ったのは松浦静山(野球監督じゃないよ)ですが、小説に「不思議の勝ち」は許されません。

 本作の主人公がモチであるのなら、なぜモチは、一千年ものあいだ愛を知らずに苦しんだマロンを「落とす」ことができたのでしょうか。

 また、本作の主人公がマロンであるのなら、なぜ一千年見つけられなかった答えを、彼女はモチの中に見つけたのでしょうか。

 本作の最大の欠点は、第一部を書き終えた段階で、「愛を得る」という物語の勝利条件を明確かつ具体的に決めていなかったことではないでしょうか? ←ここはぼくの推測ですので、ちがってたらごめんなさい。

 もしかしたら、その辺りのことは本編にきちんと書かれているのかもしれません。
 しかしそれは、あたかもアマチュア・ボクシングの、パンチのヒット数で勝敗が決まる判定勝利に似ています。
 が、やはりギャラリーが見たいのは、相手をぶっ倒してのKО勝利ではないでしょうか。

 総括として、第一部はSS級、プロ以上。第二部は良質、入賞の可能性あり。第三部は不完全燃焼。
 竜頭蛇尾の印象が拭えません。
 これが蛇頭竜尾だったら全体の印象はずいぶん違ったと思われます。

 本作の弱いところは、勝利条件ではないでしょうか。
 ラストにぶっ倒すのは妖怪ではなく、本当にぶっ倒すべきは読者であると思うんです。

 「愛ってなに?」という読者の問いに、「○○○だ」と明確な答えがなかったこと。それが陳腐な答えであったとしても、きちんと何かが用意されていれば第三部の流れはずいぶん違ったのではないでしょうか。

 以上がぼくの感想です。
 一個人の感覚で書いていますので、的外れな部分もあるはず。そこをご承知の上、ああ、そういう風に感じた人もあるのだなぁくらいに受け取っておいてください。


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