六.円環再生
何か古い映画のような夢を見ていた気がしたが、徐々に浮上する意識と同時にイメージは薄れ、切ないような懐かしいような後味だけが残った。うん、と気合を入れて瞼を持ち上げると、肩を叩かれていた。手から腕、腕から顔へ視線を渡すと、眩しさに再び目を閉じてしまいそうな笑顔にぶつかる。
「ただいま!」
「おかえりチドリ」
随分眠った気がしていたが、天体計のインジケータが語る時間はそうでもない。気張ったぜなどと言いながら荷物を放り出す呆れた男は、本当に金を惜しまず超特急でここへ来たらしい。
「最近のタブラサ活発すぎねえ?疲れたわ、もう今日一緒に寝ようぜ」
「それ、何のために金かけて急いだんだい」
「ちゃんと会えたんだからいいだろ。明日話そう」
言っていることが滅茶苦茶である。しかし不思議と、「チドリという人間と会話している」感覚は濃厚だ。薄氷のような刹那の一つ一つに偽らないことを堆積したものを、チドリらしさと言うのかもしれない。少し前のムサとの話を思い出しながら、勝手にチドリをほどいていると、長椅子にどっかと腰掛けて煙草を咥えた当人と目が合う。
「何かおもしろいことあった?」
「え?」
「笑ってんじゃん」
言われてみると、頬のあたりに慣れない力みがある。理由もよくわからなかったし、自覚すると恥ずかしくなって、敢えて唇を引き結んで元に戻した。
「おもしろいかどうかはともかく、色々あったよ」
「そっか」
「明日、話そう」
「はは、賛成」
「あ」
釣られて一服するかとポケットに入れた手が再び麻袋に触れ、アイは一つだけ話しておこうと言って、それを取り出した。筐体を降りてチドリを呼び寄せ、先ほどのように、掌に広げて見せる。
【本文サンプル】コinLaundry 言端 @koppamyginco
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