【本文サンプル】コinLaundry

言端

　九一年、世界は逆転した。文字通り、天地がひっくり返った。海は頭上へ、足元にはアスファルトに代わって途方もない面積の瓦礫。新生した空という名の陸海から落ちてくるそれらは州や小島ほどのクラスターを形成し、以来、そこが足の踏み場となった。降ってくるのは瓦礫に限らず、旧社会の勝者たる摩天楼の先端や何かの罪人やただの善人、その他無作為に、元・地上に息づいていたありとあらゆるものが、元・空の底へ為すすべもなく堕ちていった。

　Reverse of the World、「９１ＲＯＷインパクト」と称される惑星規模の天災である。

　それから二十余年、時は流れて今現在。すっかり我が物顔で世界を覆う天の浮海（うきうみ）の下、浮遊する諸島状の地で今なおヒトは営みを繰り返さんとし、またその西の片隅にひとつ、不変の喫煙所が孤立していた。