第6話 本来の目的ではなかった。

田口弘明という男の部屋の前で、小林は、イヤな違和感を感じた。

もちろん、すぐに佐武と勘太郎に報告。

佐武が小林と田口のアパートに向かった。

そこで佐武は、カプサイシンガス臭を感じた。

『毎日、団子を買うほどの甘党にカプサイシンは似合いませんけど。』

小林の意見は、至極当然な普通の感想。

一応、当たってみるしか選択肢はないのだが。

田口弘明は、サーカスの職員だということがわかった。

勘太郎はなるほどとうなずいている。

正田以下の捜査員達は、意味がわからない。

佐武と小林は、かろうじて平静を装っていた。

『田口は、たぶん猛獣の担当者やな。

ガスやなくてスプレーやったんやな。

なるほど。

サーカスの職員とはいってもパフォーマーやないやろう。

たぶん飼育係やろう。』

サーカスショーに出演する演者なら、時間が一定にはならん。

飼育係なら、ショーの開催中は用がない。』

勘太郎の推理は、そこまで進んでいる。

猛獣といえど、生まれて数分から育てるのだから、ペットとなんら差はない。

寝床となる檻に収用してから後は、食事を与えて寝かせて翌朝まで用事はない。

パフォーマー団員は、サーカス小屋に寝泊まりしているが、田口のような地元職員には小屋は与えられない。

唐辛子スプレーは、猛獣の檻を掃除などする場合に動物との間に撒くと猛獣といえど近づかないのである。

だからといって、被害者の高木元親と田口弘明の関係があるとは思えない。

和菓子店の店主とサーカスの猛獣飼育係に接点があるとは思えない。

地方遠征中なら飼育係とはいえ、サーカス団に帯同することが多い。

しかし、本拠地講演の場合、1日2回講演としても昼講演前から夜講演終了までの約7時間は飼育係に用はない。

というわけで、田口は昼講演の準備が終わる午前11時頃から一時帰宅して仮眠を取ることが日課になっていた。

帰宅途中、大好物の団子を買いに御菓子司たかぎに寄ることが唯一の楽しみになっていた。

しかし、高木元親は昔気質の塊のようなお爺さん。

当然、田口が来店する時間は、変な時間と捉えていた。

しばらくすると、事情も聞かずに田口をバカにし始めた。

挙げ句のはてに、団子の販売を拒否してしまったという。

これには田口も困ってしまって。

しばらくは、コンビニのパックの団子で我慢していたのだが。

やはり、職人さんの手作りと工場の大量生産品では同じようにはいかない。

『我慢が限界に達してしもたんかもな。

んで、大爆発か。』

いかにもありそうな話しではある。

だからといって、田口弘明を犯人と断定できる証拠はない。

可能性はあるが、証拠も無しに犯人の疑いをかけるわけにはいかない。

だいたい、元々が興味本意でついていっただけなのだ。

ただし、状況的には放っておけるようなものではない。

田口弘明、証拠はないが捜査対象にする理由はある。

サバイバルナイフについても、持っていても不思議ではない。

猛獣飼育係なら、持っていなければならない。

カプサイシンガススプレーを自宅で作っている。

高木元親とのトラブルがあった。

等々、状況は犯人と疑うのに十分過ぎる内容が揃ってしまっている。

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