第7話 困った親父

捜査が進むにつれ、高木元親という頑固オヤジ。

頑固を通り越えて、偏屈オヤジに到達していたようだ。

田口の件だけでなく、かなりの人数に自分の考え方を押し付けていた節がある。

自分の意にそぐわない者を徹底的に、排除していた。

和菓子を販売しないどころか、店に近づくことを嫌い、水を撒いたりして来店しないように妨害していた。

当然、恨みを買うことも多く、高木元親を恨んでいそうな人数は百人ではおさまらない。

正田警部にしてみれば、殺された原因は被害者である高木元親にあるという結論。

勘太郎や佐武も、同じようには思う。

しかし、だからといって殺人をして良いことにはならない。

100歩譲って、高木元親が殺されたこと自体は自業自得としても、残された夫人は。

『いくら犯人に、情状酌量の余地があっても、殺人は罪や。

情状酌量は、警察官の範疇やない。

そんなもん、検事さんと裁判官さんに任しとけ。』

警察官の仕事は、犯人を見つけて証拠と合わせて検察庁に送るまでのこと。

とはいっても、人間としては、いろいろな感情は入ってしまう。

しかも、今回の場合、被害者のせいで、殺人の動機がある人数が百数十人にのぼる。

その百数十人について、いちいち確認作業をしなくてはならない。

捜査員達には、終わるまで何日かかるのかわからないという空気が流れる。

捜査員達に、やる気のなさが感じられる。

しかし、いくらあきれた偏屈オヤジとしても、百数十人から恨みをかうなどという常軌をいっする者が、それほど評判になる和菓子を作り、商売として成り立ってきたのであろうか。

勘太郎の考えは、そんなはずない。である。

勘太郎には、意外と早く人数を絞り込める予感がしていた。

その予感を話して、捜査員達に発破をかける。

案の定、ほんの数時間で、約3分の1が捜査対象から消えた。

高木元親の死亡推定時間に当地にいなかった人間で、つまりはアリバイがしっかりした者が続々と出てきた。

また、高木にあわせて生活を変え、和菓子の提供を受け、恨む必要を自ら圧し殺した弱腰な連中がまたまた3分の1。

つまりは、殺害動機としては薄い者が3分の1。

田口弘明は、この中に属する。

そこまで到達するのに、わずか1日半。

勘太郎の予感は的中したのだが、犯人の思惑とは、絶対に違うはず。

小林と佐武は。

『犯人は、まさかこんなことになるとは、考えてへんかったやろうなぁ。』

さすがに、正田警部も同調するしかない。

『いくらなんでも、犯人の誤算でしょうなぁ。』

あっという間に恨みがあると思える人間が3分の1に絞れてしまった。

『犯人にしてみれば、みんなを代表して殺したったてなとこもあるかもしれませんねぇ。』

小林はため息。

捜査本部には、犯人に同情する空気が流れはじめている。

小林にしてみれば、田口が捜査線上からはずれたと思ってある意味胸を撫で下ろした。

しかし、勘太郎と佐武には、そんな簡単な終わり方はできないという予感が湧いてきた。

田口のアパートで小林が感じた違和感は、かえって謎になった。

勘太郎と佐武にしてみれば、自身が育て上げた敏腕刑事の小林が感じたという違和感は、見逃せるものではないことは、知りつくしている。

京都府警察捜査1課主任小林警部補。

入庁以来、交番勤務の数年を除き、以来勘太郎と佐武に食らいついて頑張ってきた小林が努力で手に入れた能力。

犯人に近づいた時に感じる違和感は、かなりの高確率で当たるようになっていた。

田口のアパートの部屋の前で小林が感じた違和感を信じて、捜査を進めてきたからこそ、現在の絞り込みがある。

その田口が、早々と捜査線上から脱落してしまった。

『久々のかたすかしかい。』

勘太郎と佐武が顔を見合わせて笑った。

しかし、勘太郎にはそんな簡単にはすまないという予感が徐々に大きくなっている。

直後、勘太郎と佐武と小林は飛び上がるほど驚くことになる。

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