第8話 的中

勘太郎と佐武と小林は飛び上がるほど驚いた。

『冗談やない。

んなもん当たってもしゃーない。』

小林の嫌な感じが当たってしまったのである。

管内の交番に田口弘明が出頭して自首してきた。

小林は、複雑な表情になっていた。

勘太郎と佐武にしても、やはり、釈然としない。

田口の殺人の動機としては、やはり恨み。

自身は、自身の弱気から。

高木元親が嫌う時間には、高木の店に行かないようにして、しばらく、高木の嫌う時間を分析。

自分だけでなく、多くの人が追い返されるのを見た。

自身は、スーパーの安物の団子で我慢している。

たしかに、相当な執念ではある。

その後、高木元親が好む時間に店に行くと大歓迎された。

そのギャップに激怒したが、自分はまだマシなんだと言い聞かせたという。

たしかに、追い返された人達の中にはバケツの水をかけられた人までいる。

そのことを考えれば、田口はまだマシということもわかる。

だからといって、田口が殺した証明にはなり得ない。

証拠がなければ、自首といえども鵜呑みにはできないし、逮捕も拘留もできない。

発見した凶器のサバイバルナイフに残っていた残留指紋と田口の指紋は一致。

だからといって、このサバイバルナイフが田口の所有であるとは証明がない。

それでも、一応逮捕して拘留することができるようにはなった。

『しかし、動機が弱いなぁ。』

小林がぼやくのも仕方がない。

殺人という凶悪な犯罪を犯してしまった人間に見えない。

また、そこまで胆の座った者にも見えない。

殺人は、犯罪の中でも、凶悪極まりない。

たとえ、前科数犯という悪人でも通常の精神ではなかろう。

しかるに、田口はあまりにも飄々としていた。

『田口、誰かを庇っての自首ちゃうやろうなぁ。』

小林は、どうしてもひっかかってしまっている。

田口は、黙っていれば容疑者からも除外されたかもしれないほどに動機が薄い。

勘太郎と佐武にしても、同じ懸念を抱いている。

ましてや、殺害方法がかなり荒っぽい。

田口のような、気弱な人間に、はたしてできるかどうか。

はなはだ疑問である。

ただ、自分がやったとゆずらない。

正田警部、困ってしまった。

『どうしましょう。

判断難しいですねぇ。』

勘太郎達に質問するほどに取り乱してしまった。

『とりあえず、サバイバルナイフの所持で銃刀法違反容疑で拘留するしかありません。』

殺人事件の凶器と断定されたサバイバルナイフに指紋が付着していたのである。

銃刀法違反の懸念はなくならない。

小さな容疑で、拘留しておいて本事件の容疑をかためる。

ただし、田口の場合自首なので、逃亡も証拠隠滅も危険性が少ないと判断されてしまっては拘留が出来なくなる。

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