第9話 どんでんどんでん

京都府警察本部捜査1課係長小林悟警部補。

もう1回田口のアパートの部屋の前に行くことにして、勘太郎に許可を願い出た。

現場100回。

小林が新入生の時に勘太郎から叩き込まれた。

容疑が確定するまでは、何度でも現場に通うという地道な捜査。

京都府警察本部捜査1課で、現刑事部長の本間が、警部の頃から脈々と受け継がれる基本中の基本。

『やっぱりな。

当たり前田のクラッカーや。

納得できるまでやってこい。』

勘太郎は、嬉しそうに笑った。

『コバ。

今日は、俺が助るでぇ。』

『さ・サブ先輩。

100人力ですわ。

よろしくお願いします。』

京都府警察本部鑑識課課長佐武警部。

日本鑑識技術選手権大会6連覇中の日本最高の鑑識である。

これほど心強い相棒はいない。

30分後。

小林と佐武は、自首してきた、田口弘明のアパート部屋前にいた。

そこで小林が、変な顔をした。

敏感に気づいた佐武が。

『コバ。

どないした。』

『サブ先輩。

田口が自首してるにもかかわらず、嫌な感じが消えてへんのですわ。』

そんなはずはない。

過去には、容疑者が逮捕されると、嫌な感じが消えていた。

佐武は、小林の言葉を頼りに辺りを見回した。

『遅れて申し訳ありません。

このアパートの大家で水無月と言います。』

建物のオーナー水無月が、たくさんの鍵が入った箱を持ってきた。

小林と佐武は、感謝の言葉を述べて。

『オーナー。

このアパートで、田口さんと仲の良い人はおられますか。』

小林は、その辺りに見当をつけた。

『さぁ・・・

仲の良し悪しは、ともかく。

1棟丸々、サーカス会社さんにお貸ししてますので。

社員寮にしてられます。

私共で管理人をさせていただき。

もちろん。

仲の良い人はおられると思いますよ。

1階の小崎さんとは、よくご一報でしたけど。

夕方に、田口さんと小崎さんがイス出して、そこに積んであるビールのケースをひっくり返して、テーブル代わりにして将棋盤とビールとおつまみ置いて。

将棋さしてはりました。

それを皆さんが囲んで、和気あいあいした感じでしたけど。』

なんだか、少し変わった事実があるようだった。

アパートは2階建てで、田口の部屋は2階の一番端。

隣は空き部屋。

真下の1階の小崎と親しかったらしい。

残念ながら、この日は留守。

小林警部補、さっそくサーカス会社の事務所に連絡して、小崎に帰宅してもらえないかたずねようとした。

ところが、サーカス本隊が年1回の地方講演に出ているという。

今は、岡山辺りだという。

『なんだか、承平天慶の乱になってきたな。』

報告を聞いた勘太郎の感想。

当然、小林と佐武までもが、わからない。

『俺らが此処にきたのはなんでやった。』

勘太郎の質問に、正田警部が。

『遺体の遺棄現場が、平将門公の神社でしたもんで、佐武さんに連絡させていただきました。』

『そこなんですよ。

平将門が始まり。

で、瀬戸内海でしょう。

藤原純友が誘ってる。』

正田などは、なるほどと手を叩いて聞いている。

しかし、小林と佐武は勘太郎の引っかけに乗らない。

『んなわけないやろう。

たしかに、地理と歴史的にはつながっているように見えるけど。

平将門公は日本三大怨霊の1人やけど、藤原純友が怨霊とは聞いたことあらへん。』

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