第4話 なんと意外な

犯人の手がかりも何一つない事件の捜査が始まった。

当然、国王神社に戻って、遺留捜査から始めるしかなかった。

1メートル四方を単位として、1人1区画担当で、緻密な捜索が行われた。

にもかかわらず、数日が過ぎても手がかりが見つからなかった。

1週間ほどが経ち、捜査員にあきらめの色が出始めていた。

神社の前に立っていた制服の巡査に子供達が近寄って。

『お巡りさん・・・

 こんな物が落ちてました。』

明らかに、血痕が付着したサバイバルナイフである。

巡査は、すぐに正田警部に通報して、子供達に連れられて児童公園に向かった。

すぐに、正田警部と勘太郎達が合流。

そこには、子供達と付き添いで近所の動物病院の獣医が待っていた。

獣医の話しによると。

子供達のペットの犬猫が、児童公園の生垣でケガをするとうったえがあり、子供達と原因を探していたところ、サバイバルナイフが落ちていたという。

多少、錆びてはいたものの、血痕とわかることから、近くの国王神社にお巡りさんがたくさんいることを思い出して、呼びに行ってもらったというわけだった。

獣医の話しによると。

『ペットの犬猫の血痕かとも思ったんですが。

犬猫にあのナイフじゃ、大き過ぎて即死しますよ。

しかし、私の医院では1匹も死んでいませんので。』

すぐさま、ナイフの血痕を鑑定された。

ナイフの血痕は、被害者の物と一致した。

佐武が、子供の1人の手を粘着シートにくっ付けさせていた。

正田警部達は、犯人の指紋と見分けるためだと思っている。

当然、それもあるが、佐武には違う可能性が見えていた。

『サブちゃん・・・

やっぱり気がついたか。』

勘太郎には、佐武の考えがわかったようだ。

『先生・・・

ワンちゃんと猫ちゃんに、変わった症状はありませんでしたか。

たとえば、目がショボショボして、涙目だったとか、ムセていたとか。』

佐武が獣医に質問した。

正田警部達は、またまたわけがわからない。

勘太郎は、子供達にポケットティッシュを配っている。

ウェットタイプの物だ。

『いいかい。

みんな、これで、よく手を拭いて下さい。

それから、お家に帰ったら、よく目を洗って下さいね。』

『刑事さん・・・

たしかに、ワン子ニャン子に、症状ありましとたが、何か悪い物ですか。』

獣医が心配そうに訊いてきた。

『命にどうこうあるような危険な物ではありません。

ただ、長時間ほっておくと、アレルゲンになりかねませんので。』

勘太郎が、説明を始めようとした。

『子供達の親御さんはおられますか。

できれば、耳鼻科と眼科の診察を受けて下さい。

この辺りにカプサイシンガスの臭いがしています。

今すぐにどうこうというわけではありませんが、次に唐辛子を食べる機会があれば、目や皮膚にアレルギー反応が出るかもしれませんので。』

勘太郎と佐武の心配は、万が一のアナフィラキシーだった。

カプサイシンによるアナフィラキシーショックの可能性を心配してのことだった。

獣医が困り顔で、近所に皮膚科と眼科の診療所がないという。

子供達も同じなわけで、受診が思うよういかない。

捜査員にも、数日で、かなりの人数がこの公園の生垣に近付いている。

勘太郎、どこかに電話をかけて。

『皆さん・・・

ご足労ですが、警察署の会議室で、警察病院の皮膚科医師と眼科医師が診察いたしますので。ご都合がよろしければお越し下さい。

診察費用は、警察庁で負担いたします。』

全員が、警察署で診察を受けることを希望した。

診察ブースは2コーナー。

大人用と子供用。

受付の長テーブルで全員の受付が終わると、仕出し箱が運び込まれた。

祇園乙女座の糸魚川と美野里が全員に声をかける。

『皆さん・・・

京都祇園のミシュラン1つ星店、乙女座の料理長糸魚川でございます。

本日の皆さんのご協力に感謝の気持ちをお弁当にいたしましたので。どうかお持ち帰り下さい。』

いつの間にか、糸魚川と美野里まで登場して。

さすがの勘太郎も、首をかしげた。

仕出し箱の先頭には、高島萌まで並んでいる。

佐武と小林が出発するところを、糸魚川に見られていたらしい。

なんと意外な、勘太郎一家の勢揃いになってしまった。

今や乙女座は、全国的な超有名店、その弁当をお土産にもらえるということで、子供達とその親は喜んだ。

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