第5話 知恵比べ

勘太郎と佐武と小林は、ひそひそ話している。

犯人は、捜査の裏をかいて、少し離れた児童公園に凶器を棄てた。

故意なのか偶然なのか。

途中。勘太郎は正田警部の意見も訊いてみたくなっていた。

正田警部は、偶然説に路線を考えた。

理由は、故意だとすれば、もっと離れた児童公園を選ぶと思うという。

当然、間違いではない。

勘太郎は、故意ならば、はなから凶器を遺棄することなどという危険なことはやらないと考えた。

普通、凶器から犯人が特定されることが一般的になってきている。

国王神社などという被害者の遺棄場所を選ぶことからも、少なからず計画性が見て取れる。

反面、かなり時間が経過してからも、カプサイシンガスが残っていたことは気にしていなかった。

『何か変な匂いがする。

韓国料理屋でもあるかなぁ。』

というずさんさもある。

実際、すぐ近くに韓国料理店があり、普段から、唐辛子の匂いはすることがある地域。

しかし、料理では香ばしさはあっても、刺激臭は入らない。

どちらにしても、カプサイシンガス程度では、被害者の動きを止めることすら難しい。

インドやアメリカが、軍用として使うブートジョロキアのガスならともかく、日本国内で一般的に販売されている程度の物では。

被害者の高木元親は、いかに高齢とはいえかなり大柄な男性。

市販のカプサイシンガス程度では、催涙ガスとしての効果すら定かではない。

涙ぐんだとしても動きを止めることは難しいと考えられる。

しかも、凶器は巨大とさえ言えるサバイバルナイフ。

当然、けっこうな重量がある。

殺傷能力はかなり大きい。

サバイバルナイフを片手に持ってカプサイシンガスを被害者に浴びせる必要がない。

というより、カプサイシンガスを吹きかける時間がもったいないと考えられる。

しかし、犯人はあえてカプサイシンガスを使っている。

この意味が何かのカギになるのか。

正直なところ、勘太郎にも何かの意味があるとは思えない。

しかし、常軌を逸しているからもしかしたら、という懸念は拭えない。

『無駄やとしても、確証がない限りやらなしゃーない。』

というのが、勘太郎と佐武の考え方。

正田警部も同意するしかなかった。

とりあえず、正田警部の発案で、市内にあるスパイスを扱う店を総当たりすることにした。

七味・八味などの唐辛子食品を製造販売する企業が数社。

大きいものは、インドやマダガスカルからスパイスを輸入する企業まで。

意外に多くあることがわかった。

中には、カプサイシンガスのスプレー製造卸しというあからさまな会社まであった。

ここまでは、すぐにたどり着かれることくらい、誰が考えてもすぐにわかりそうなもの。

犯人は。そのことをわかった上でミスリードしているということが考えられる。

しかし、人殺しという常軌を逸したことをやってしまったので、気が動転してしまい、単に慌てただけとも考えられる。

知恵があるのか、ないのかもわからない事案となりつつある。

犯人との知恵比べは、できないかもしれない。

支離滅裂自暴自棄の犯人なら、知恵比べなど望むべくもない。

ただ、今のところ『御菓子司たかぎ』を見張ることからしかやることがない。

すると、中には毎日来店する者が数人。

団子を二本。

決まった時間に来店して決まって団子を二本買っていく。

若いとはいえない。

もちろん、お年寄りではない。

大の男が、毎日来店して団子を二本。

事件とは、関係なく興味はそそられる。

ある日、我慢できなくなった小林が、男性の後をつけた。

近所のアパートで、1人暮らしをしている田口弘明という表札が確認できた。

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