古風で硬派な文体が癖になる旅のエッセイ、第二弾はブラジル編。

 エッセイ・ノンフィクションだけど殺し屋の日記。なんとも不思議な旅とグルメのエッセイ、第二弾である。

 作者・久里 琳さんのあまり目にしたことのない漢字を使った、古風で硬い文体が、語り手である殺し屋のキャラクターを一層魅力あるものに見せている。まるで侍のような、生真面目で人を殺すことを生業にしているとは思えないような静謐さを感じる殺し屋は、「仕事」を済ませるたびに罰として、苦手である甘いものを食すことを己に課す。そういうところがなんだかおもしろみがあって、ますます魅力的だ。

 甘いものだけではなく、その土地で食べられているグルメについても語られるのだが、これも非常に興味深い。日本でも昨今はありとあらゆる世界のグルメが食べられるとはいえ、第一弾で紹介されたトルコ料理や、今作のブラジル料理などはやはりまだあまり知られていないと思われる。私も、ブラジルを代表する国民食らしいフェイジョアーダすら知らなかった。他にも見たことも聞いたこともない料理がボリュームたっぷりに登場する。

 タイトル通り、移動中の車窓から見える景色などの描写も素晴らしい。というか、これがメインと云っていいかもしれない。観光案内サイトなどでは決して見られない、鄙びた景色の描写は、まるで一枚の絵画のように感動を呼ぶ。もはや芸術的と云っていいほどの、惚れ惚れとする風格漂う筆致である。

 今回の旅はまだ始まったばかり。ぜひ多くの人に、魅力的な殺し屋と同じ列車に乗り合わせてほしい。

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