第二部・かくて一家は『空賊』となった。

 早速、ジョユスはこの辺りで最大の街、港湾都市リベンプールへ向かった。

 かつては造船で栄え、戦時中は『小銭艦』を大量建造するのに大忙しだった街も、戦争の終結と全球恐慌のお陰で死んだようになっている。

 景気の良いのは南方大陸から石炭や石油、液化浮素、材木などを運ぶ貨物船が留まるコンビナートや荷受場だけだ。

 ジョユスはこの街の住人の多くを占める港湾労働者、今は失業者が多く住む集合住宅を訪れ、先ず一軒目のドアを叩く。

 現れたのは小柄な年配の男性。長い事台所に放置して、しわくちゃになったジャガイモを思わせる風貌の持ち主だ。

 かつてのジョユスの副官。ダラル・ビハーン元准尉だ。

「ご無沙汰です、艦長、まずはおあがりください」と室内に通される。

 男やもめの割には整理整頓された室内。奥の真教の祭壇には聖人の像と今年亡くした彼の妻の肖像写真。

 回りくどい説明を端折り、いきなり確信から話す。

 つまり、『空賊をやる。戦時中みたいに機関士をやってくれないか?』

 ダラルはしばらく妻の遺影を眺めていたが、ふと立ち上がると食器棚から飲みかけのウイスキーをとグラス二つを取り出し、並々と注いで一個をジョユスに渡し。


「海賊なら、ラム酒なんでしょうが、残念ながらうちにはコイツしかありませんで、代わりにコレで乾杯しましょう。空賊団結成に、乾杯」


 差し出されたグラスを一気に飲み干すと、今度は別の集合住宅をダラルと目指す。

 到着すると、巨大なトランクを抱えた女性が男の子二人と女の子二人、あと小さい赤ん坊を背負って玄関から出て来るところだった。

 女性には見覚えがあった。これから会おうとする男、アバル・ベイリン元曹長の妻だ。

 目が合うと彼女は簡単に目礼しただけで、ムッツリ黙る長男と、パパ!パパ!と泣きながら連呼する次男、何が何だが解っていない長女次女を連れて階段を駆け下りて行く。

 部屋に入ると、歳の割には老けた眼鏡を掛けたバッタのような容姿雰囲気のアバルが、寂し気な苦笑いを見せつつリビングに突っ立っていた。


「いやどうも、お恥ずかしい所をご覧に入れました。昨日、浮素液化工場をクビに成りましてね。ついに女房に愛想付かされましたよ。バーナム地方の実家に帰るそうです」

 

 と、本当に恥ずかし気に状況を説明すると、かつての上官二人を部屋に招き入れた。

 雑然と散らかるリビングのテーブルを囲み、まだ汚れているカップに注がれた出がらしの紅茶を飲みながら、今度も本題から切り出すとアバルは。


「へぇ、空賊か、ぶっ飛んだ話ですね。でも面白いや、ええ、結構ですよ。こうなりゃ海賊でも空賊でも何でも成ってやりますよ。私はねぇ、もういやになって来たんですよ。まじめにやるのが、神の為、お国の為、妻や子の為を思って、石に齧りつくような思いで浮素の原理を学んで、何時バラバラに成るか解らない小銭艦で命懸けで戦って。その結果が神にも国にも妻子にも捨てられた。お二人から誘うに来なくても、私は何かやらかしてたでしょうね」


 これで一味は揃った。

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