走るスクラップのような三輪トラックに載せられ、ジョユスとダラルは街の郊外にある森に連れていかれた。

 しばらく立木の中を走ると、猟師小屋のような建物が現れる。

 トラックを停め、薄っすら積もった雪の上を歩きだすとイーリスは続いてくる二人に言った。


「ごめん、私の足跡を正確に踏んでついてきて、でないと対人地雷を踏んじゃうから。昔の海賊みたいに棒キレの義足はゴメンでしょ?」


 冷や汗もので小屋にたどり着くと、何個もあるカギを開錠しドアを開ける。照明を点灯すると現れたのは。

 拳銃、短機関銃、歩兵銃、騎兵銃、狙撃銃に軽機関銃、重機関銃、迫撃砲に無反動砲。およそ携行火器と呼べるものはすべてそろっており、おそらく近代的な歩兵中隊を丸々一個今すぐ編成できそうなほどの装備がそろっていた。そしてどれもが完璧な状態にまで整備されている。

 あまりもの壮観な眺めに、男二人は沈黙するしかない。

 イーリスは一番奥にすすみ、作業台の上に鎮座する黒光りする禍々しい精密機械を革手袋越しの手で愛おし気に撫でつつ。


「大尉殿にオススメなのはコレ、アキツ諸侯連合帝国造兵工廠謹製、13ミリ重機関銃。おそらく全球で最高性能を誇る重機関銃よ。小銭艦に搭載するならこれ一択ね」


 自分の艦に搭載されていた機関銃と同じ13ミリだが、性能と耐久性についてはこちらの方が上と言う評判は身に染みて感じていた。

 思わず自分も触ってみる。

 冷たいが手に異様に馴染む触り心地、よく手入れされ潤滑油もしっかり塗布され、弾丸さえ食らい込めばいつでも辺りに死と殺戮をばら撒ける殺戮機械。


「幾らかな?」ジョユスの問いにイーリスは即答する「160ポルド(400万円)」


 諦めるほかない。高利貸しからの借金は殆ど浮素や燃料の購入に粗方消えた。


「とても予算が足りない、済まなかった」と言いかけたその時、不敵に笑いつつイーリスは言った。


「予算が足りないって顔ね、大尉殿。でも安心して、分割払いで良いわ、月2ポルドの76回支払いで6年と4カ月でどう?頭金は8ポルド、金利、手数料はナシよ」

 

 思わす「どうしてそこまで」と言葉が漏れたが、対して彼女はあの笑みを絶やさず。


「大丈夫、儲けの事は考えてるから、確かに今は空賊なんてイカレた考だけど、もし大尉殿が成功すれば神聖王国連合中で食い詰めた小銭艦乗りがあなたの真似を続々としだすわ。賭けてもいい、その内帝国や他の国でも出てくるかも?そしてそうなれば奴等が欲しがるものは?まぁ、ラッパ銃やカットラスじゃないことは確かね。これはね、先行投資なの。空賊時代へのね。だから頑張ってよ空賊さん!」


 その翌日の真夜中。

 見覚えのあるボロ三輪トラックがジョユスの家にやって来た。乗り込んでいたのはイーリスでは無く見たことも無いひげ面の大男。おそらく彼女の手下かなにかだ。

 彼はボロ布に包まれた重く長大な荷物一つと、ずしりと重い木箱をいくつか、それと長い新聞紙の包みが一つ。それを置いて行くと、大男は言で立ち去って行った。

 荷を解くと包みはあの13ミリ重機関銃、木箱はその弾丸。新聞紙の方は使い込まれたカービン銃とその弾丸が百発ほど。添えられた手紙には。


「前略、取り急ぎ、ご注文の品、おとどけいたしましたことをお伝えします。品物が品物だけに受領書などは結構です。尚、木箱と新聞の包みにつきましては当方からの開業のお祝いであります。これからの益々のご繁栄を心よりお祈り申し上げます、草々」

 

 ディリックは13ミリ重機関銃を見て声を抑えてはしゃぎ回り、アルネスは「中々肝の据わった人だ。期待に応えなきゃ」と感心し、アバルはダラルと今日中にこれを船に据え付ける算段を話しあい始める。

 いつの間にかアマンデはジョユスの傍らにいて、彼に言った。「この船って名前は有るの?」

 ジョユスは、なぜか口角が上がるのを感じつつ答えた。


「飛行打撃艇2302号、けど俺たちはこう呼んでた。『イカヅチ号』天を駆ける雷光、『イカヅチ号』ってな」

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