ワッチ(見張り)が明け、ダラルに操縦席を譲る。すれ違う時彼はジョユスの肩を叩き「最初の殺しはきつかったでしょう。息子さんを慰めてやってください」

 それにはただ頷いて答える。

 キャビンに入ると、アマンデがウイスキーの瓶とグラスを出して待っていた。

 小さなグラスに琥珀色の液体を注ぐと、だまって彼に差し出す。「すまん」と言って受け取り一気に飲み干した。グラスをテーブルに置くと、彼女はまた注いでくれる。

「息子を、人殺しにしてしまった」ジョユスはため息の様につぶやいた。アマンデの肉付きの良い手が彼の肩に置かれる。

 人の気配がして顔を上げると、ディリックとヌーナクが硬い表情で立っていた。

「船長」ディリックが呼びかけるとジョユスは「親父で良い」


「じゃぁ、親父。俺、腹括ったよ。今まで括って無かったわけじゃないけさ、でも、今日で完全に吹っ切れた。もう後戻りできねぇ」


 そう昏い目で言うディリックを潤んだ眼で見つめた後ヌーナクも。


「俺もです、船長。最初は奴隷に成るのが嫌でみんなについて来ただけでしたけど、獣人の俺の命を守る為に、ディリックの兄貴は人殺しまでしてくれたんです。俺はもう一生『イカヅチ空賊団』の一員です」


 ジョユスは立ち上がり、二人肩を両脇に寄せ抱きしめる。アマンデのすすり泣く声が聞こえる。肩に右舷銃座から降りて来たアルネスの手のぬくもりを感じる。いつの間にか起きていたアバルはキャビンの隅に佇み、優しく寂しそうに笑い自分の眼鏡を直す。

 船橋からのダラルの声が伝声管から響いた。


「水平線から太陽が出ました。夜が明けです。一日の始まりですよ」

 

 

おわり

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