173話 居酒屋『京極』オープンの日
新宿ゴールデン街のコアラビルの前に車は止まった。
横山直美はドアを開けて車を降りるとドアを開けたまま、
「鬼ヶ原真澄美さん、スキンヘッド降りて」
車からモアイが
上を向いている横山直美を見たモアイと風間も見上げると、
🗿≪居酒屋『京極』の看板?
【直美…… 真澄美をこの居酒屋『京極』に連れて来たかったのか?】
横山直美とモアイは見つめ合い、
「鬼ヶ原真澄美さん、私はあなたを居酒屋『京極』にスカウトしたかったんです」
🗿≪……アンタが居酒屋『京極』を作ったんだ?
「はい。 内装工事が済んでませんからオープンはまだですけど」
🗿≪なんでワタシが料理の仕事してるって分かったの?
「Twitterです。 赤銅さんの500万人のフォロワーの中から聖クリ関連者のTwitterを調べました。 あなたが大分昔にTwitterの画像に載せていた鉄のコブシであなたが誰か分かり、ツイートで現在の仕事も分かりました。 あなたがスキンヘッドの出所に行く事もです」
🗿≪そこまでして……アンタなんでワタシをスカウトするの? 1人じゃ居酒屋をするのが無理だから?
「そうです。 私の料理の師匠(たんぽぽ大将)に聞くと、居酒屋『京極』をオープンしたら近隣の知名度を上げるために昼営業をしろと言われました。 でも私は毎朝、豊洲市場まで仕入れに行かなければなりません。 昼と夜を営業をするにはもう1人調理人が必要だとも言われました」
🗿≪なるほどね…… ワタシは持ってないけど、アンタは調理免許持ってるの?
「はい」
モアイは上にある『京極』の看板を見上げながら、
🗿≪なるほどね…… 居酒屋『京極』か……
肩を貸すスキンヘッドの顔を見て、
🗿≪ヨシトモさん……どうしよう?
【真澄美が決めろ】
横山直美は…… ゆっくりとアスファルトに両膝をつけて、
「鬼ヶ原真澄美さん…… 私が京極茜が死んだ原因ですが許してください…… そして、この私に、どうか力を貸してください」
土下座した。
🗿≪頭を上げて
「はい……」
🗿≪立って
「はい……」
🗿≪いつオープン?
「2週間後の金曜日を予定しています」
🗿≪今の総菜屋は辞めるけど、すぐにとはいかない。 来月からなら大大丈夫だけど…… オープンは4週間後の金曜は無理かな?
「7月3日の金曜日? 茜と母さんの命日……」
🗿≪ダメ?
「分かりました」
・
・
・
・
・
7月1日。
コアラビル二階の居酒屋『京極』のテーブル席にはモアイとペンを持った横山直美が座っている。
🗿≪定休日は?
「そうですね…… 気合入れて無しで行きましょうか?
🗿≪ダメダメ、作った方が良いよ
「なぜですか?」
🗿≪休みの日には流行っている店に勉強で食べに行ったり、近所のお店に食べに行って好印象を残したら、そのお店が満席の時にお客さんを紹介してくれるかもしれないでしょ?
横山直美は眼鏡をクイっと上げて、
「なるほど」
🗿≪同盟っていうか…… 店同士の横の繋がりも多少は大事だと思う。 定休日は休むんじゃなくて定休日にしかできない事をするの
「分かりました…… 定休日は日曜日にしましょうか?」
🗿≪ダメダメ、ワタシなりに、この辺の飲食店の定休日を調べたら日曜が一番多くて次に月曜だった。 他店とずらした方がいいよ? そうね火曜日が良いと思う
「分かりました。 定休日は火曜日にします」
横山直美はテーブルの上のノートに定休日火曜日と書いた。
「昼と夜の営業時間はどうしましょう?」
🗿≪ワタシがメインで受け持つ昼は11時半から14時までしましょう。 前日に残った食材をフライとか照り焼きにして日替わり定食という形で提供しましょう。一食1000円くらいでね?
「はい」
横山直美はノートにメモ。
🗿≪夜もワタシが手伝うと言っても、夜のメインは女将(横山直美)なんだから、夜の営業時間は女将が決めてよ?
「はい…… 家が近いと言えども、遅くまで営業すると朝の豊洲の仕入れに影響が出るし……5時から11時までにしようかな……」
🗿≪取り合えず、それでいいんじゃない?
「はい」
横山直美はノートにメモ。
「夜のメニューは握り寿司も出しますね」
🗿💧≪ワタシは握れないけど…… 女将は大丈夫なの?
「はい、室戸岬で居酒屋風のシャリ少な目の握り寿司を教わってきました」
🗿≪ポテトサラダもメニューに入れてくれないかな? ワタシの得意料理なの
「はい、焼き鳥も入れますね、お刺身も」
🗿≪いいね
二人は楽しそうにメニューを話し合い決めた。
――――――――――――――――――――――――――――
おふくろの味 居酒屋『京極』お品書き 税込み
女将のお刺身 1400円
女将の握り寿司盛 1000円
もろキュー 300円
トマトスライス 400円
ポテトサラダ 500円
卵焼き 500円
おでん各種 200円
もつ煮込み 400円
焼き鳥 500円
ニラレバ炒め 600円
ニラトン 600円
からあげ 800円
エビフライ 800円
とんかつ 800円
オムライス 800円
お茶漬け 500円
ごはん(大盛50円+) 200円
味噌汁 200円
生ビール 600円
タルハイ各種 500円
焼酎水割り・ロック 400円
ハイボール 600円
日本酒一合 400円
ウーロン茶・ジュース 200円
ウイスキー焼酎はボトルキープできます
―――――――――――――――――――――――――
🗿✨≪できたね
「はい!」
その時、出入り口のドアがトントン。
「誰かしら?」
横山直美がドアを開けると、横山直美と同い年位の少しぽっちゃりした女が、
「ワタシ、隣のスナック「夢二」のママですけど~、ここ近々オープンするんですよね~?」
「はい、明後日の金曜日の5時からです。 よろしくお願いします」
隣のママは菓子折りを差し出し、
「よろしくお願いしますね~、もしよかったらお客さんには隣のウチも紹介してくれれば助かります~」
菓子折りを受け取った横山直美は、
「はい、よろこんで♪」
隣のママは少しびっくりした顔で、
「お隣さんが良い人そうで良かった…… オープンしたらお客さんで来ますね」
翌日、豊島区『法明寺鬼子母神堂』に横山直美とモアイは来た。
賽銭箱に二人合わせて10円入れて、カランカランと鳴らし、
👏🗿≪明日から始まる居酒屋『京極』が繁盛しますように……」
「商売繁盛しますように…… せめて赤字になりませんように……」
お参りを済ませ、寺を歩いて出る道中……
🗿≪女将はSNSとかで居酒屋『京極』オープンの宣伝はしてるの?
「いえ」
🗿≪女将もアカウントが一応あるなら宣伝したら?
「でも私は前科者だから、匿名で見るだけのアカウントだから……」
🗿≪そうだね。 大昔とは言え、女将がブラックチェリーだった過去を知ってる人が来たら変なウワサが広まるかもしれないもんね……ワタシもSNSでの宣伝は止めとく
「……仕方ないですよね」
翌日、7月3日の17時。
新宿ゴールデン街の通りに見える居酒屋『京極』の看板が灯った。
エプロンを着たモアイは生ダルを見て笑いながら
🗿≪生はサッポロなんだ?
調理用の白衣を着た横山直美は、
「はい。 私個人的に一番、美味しいと思って……それがなにか?」
モアイは嬉しそうに、
🗿≪なんでもない
1時間経過……
🗿≪まあ、ロクに宣伝してないし、こんなもんでしょ
2時間経過……
🗿≪暇だね……
3時間経過……
🗿💧≪まだ客ゼロってけっこうヤバくない?
調理場で包丁を研ぐ横山直美は、
「モアちゃん? 果報は寝て待てですよ?」
引きつった笑顔……
🗿💧≪うん……
4時間経過……
カチャ
ドアが開いた!
🗿≪いらっしゃいませ!
「いらっしゃいませ!」
隣のスナックのママが客ゼロの店内を覗いて、
「え? え? もしかしてだけど…… まだお客さんゼロ?」
🗿💧≪はい……
「ママさん、なにか食べていきませんか? 新鮮なお刺身ありますよ?」
「悪いけど今から営業なのよ~ また来るから」
バタン。
シ―――――――――ン
結局…… 閉店の11時になった。
🗿≪残念だけど…… ありえないことだけど…… オープン客ゼロとは……
横山直美は魚の切り身をラップに丁寧に包みながら、
「仕方ないですよ。 モアちゃん、はいコレどうぞ」
ラップに包んだマグロをモアイに渡した。
🗿≪なにこれ?
「帰ってスキンヘッドに食べさせてあげて」
🗿≪中トロじゃん? いいの?
「うん。 明日、昼営業を頼んでいいかな? 明日の昼は白身魚のフライ定食」
🗿≪うん。 朝10時には来る、初日は散々だったけどがんばろう
「はい」
🗿≪おつかれさま~
モアイは帰った。
横山直美は店の看板を消しテーブル席で座って生ビールを飲む。
余った食材で作った晩酌を見て笑顔で、
「毎日、コレじゃ太っちゃうな……」
焼き鳥をスポンっと食べてグッと飲み……
「お客さんが毎日たくさんの居酒屋たんぽぽ はやっぱり凄いんだな……」
カチャ。
ドアが開く……
横山直美と同い年位の背の高い女がドアから横山直美を見つめ、
≪看板消えてましたけど、まだいけますか? もう終わりですか?≫
横山直美は立ち上がり、
「大丈夫ですよ! いらっしゃいませ!」
1人の女はカウンターに座ると店内を見渡す。
「なにか飲みますか?」
≪樽ハイレモンください≫
横山直美は樽ハイを氷の入ったジョッキに注ぎ女の前に置く。
客の女はゴクゴクゴクっと飲んで、
≪ぷは~~うめえ≫
メニュー表を見て、すぐに、
≪焼き鳥タレでください≫
「はい、ありがとうございます」
焼き鳥を焼き始める。
≪タバコは? やっぱり禁煙?≫
横山直美はカウンター越しに灰皿を置き、
「大丈夫ですよ」
女はアメリカンスピリットを咥えて火をつけて、
≪直美? まだ気づかないのかよ?≫
焼き鳥を回した後に……
「え? 知り合い? ……まさか? 真由美?」
≪そうだよ! 黒河内真由美だよ! あ? 今は伊藤真由美だけどね? ワタシの夫がこの店の看板を作ったんだよ! 店の名前が気になって店をやり出す人の特徴を夫から聞いてピンと来たぜ。 久しぶりだな? 介護の仕事が終わるのが遅くてこんな時間になって悪い≫
焼き鳥を伊藤真由美に出すと……
「こんな私に、会いに来てくれる人がいたんだ…… 真由美には酷い事をしたのに」
≪気にするな。 伊崎カナエはもちろん覚えてるよね? まだ連絡取り合ってる。 今度、伊崎が日本に来たらココに一緒に来てやるよ。
「伊崎かぁ……校長かぁ…… ちょっと気まずいけど、向こうさえ良ければ……」
黒河内は焼き鳥は食べて、
≪うめえなコレ? 味が濃くてうまい!≫
「真由美は五反田のあの焼き鳥屋さんが好きだったもんね? うろ覚えだけど真似て焼いてみたんだよ」
≪ありがとう…… 直美も一杯飲めよ?≫
「ビールでいい?」
≪ああ、直美が良ければ、二人でもっと話したい事がある≫
「ありがとう真由美、今夜はゆっくり話せるね。 実はね……真由美がこの店の最初のお客さんなんだよ」
≪マジで? ワタシが最初の客なのかよ? 大丈夫かよ居酒屋京極は?≫
その時!
カチャ。
ゾロゾロゾロ~と男女のお客が入って来た。
お客の中にいた隣のママが、
「まだお客さんいるし店やってて良かった~」
👥👥👥👥≪ママさ~ん、ここが新しくできた店~?
「そうだよ~今日オープンしたての出来立てほやほや居酒屋『京極』だよ~」
勝手に座ったので、あっという間にテーブル席もカウンターも満席に、
隣のママは、
「女将! 時間と料理は大丈夫かな!? 酒はワタシが作って回すから!」
横山直美は真由美を見て、
「真由美……どうしよう……?」
真由美は横山直美を含み笑いな顔で見返し、
「もちろん大丈夫だろ? ワタシと話はいつでもできるんだ。 この店がある限りな?」
「うん…… 隣のママさん大丈夫だよ! どんどん食べて飲んでくださいな!」
👤🚬≪灰皿ちょうだい!
👤🍣≪この寿司うめえぞ!
👤🍺≪生おかわり!
👤🍖≪京極の料理、安いしうまいな!
👤🥃≪隣のきれいなお姉さん一人~?
「ああ、1人だぜ」
👤🥃≪うっひょ~スタイル凄いっすね?
横山直美はせっせと料理を作る。
その顔は嬉しそうだった。
翌日の10時。
カチャ。
カギを開けたモアイは、店に入るとタバコの匂いで違和感を感じ生樽を軽く持ち上げる。
🗿💧≪え? 空?
足元の焼酎の空き瓶を見て、
🗿💧≪焼酎も空?
売上伝票を見て、
🗿💦≪オープンの売り上げ10万8000円!?
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