53話 罰を受けなかった女 一葉


 タツキ…


 小5の時… いつもけちゅうの分かっちょったきね。


「夜、花火するき浜にいよ」


「でも…家の用事をお母ちゃんに頼まれちゅう」


 タツキの胸ぐらを掴んで、


「しばくぞ…おまん」


「うん…いく…」


 ヨミと一緒に、浜で花火で遊ぼう。


「ヨミ? 何連発なが? それ?」

「20、二つうちゅう」

「二人でタツキに撃ってみよ」



「タツキのジャンプでの避け方がわろうた~」

「顔に一発花火が当たったのうけた~」

「ヨミ~あほ~顔はまずいやろ~」


 男のクセにまた泣きゆう…?


「タツキ~悔しいが~? 怒っちゅうが~? 一葉のお爺ちゃん警察の次長やで? お父さんも警察やきね、もしやり返したら捕まるで、お母ちゃんも」


「うん… 悔しくない…」


「「自殺しなよ、面倒くさいき」」


 夏休みは毎日3人で遊んだ。


 夏休み最後の日…


 台風が近づいている…


 台風が来て暴風雨になる前に、港の堤防に行って高波を見ようとヨミが言ったから公衆電話からタツキの家にかける。


「台風来るき、港に行って堤防に波見に行こう」


📞《でも… 今日はずっと、お母ちゃんが家におるき…


「しばくぞ、おまん」


📞《うん…いく…  タツキだれ? 台風やで?どこにも行きなよ、カチャ。


 自転車に乗ってタツキは港に来た。


 相変わらずボロイ自転車や…

 でっこぼっこの前カゴもやけんど…

 ヨミが切ったサドルから綿が出ちゅうのが、えい味だしとる。


 3人で堤防に上がる。


「すごいな~」

「ちょっとやばない?」


 すごいデカい波が迫って来た…


「これやばい!!」

「隅を掴め!!」


 みんな堤防の隅を両手で掴んだ…

 横を向いた時…

 よく覚えている…

 波を見るタツキの顔が怖がっちゅうがじゃなくて、悔しそうな横顔…


 波が来る直前、が気になったき横を向くと…

 ワタシは見た。

 タツキが手を離したのを…





 ビショビショになったけど…

 それどころじゃなかった…


「どうする… 一葉…?」

「どうするっ…て…?」


「一葉…おとうさんか…お爺ちゃんに先ず電話したら?」

「え? うん…でも…お父さんやおじいちゃんに迷惑かかるかも…」

「そんなことっちょる場合か!!」


 父に連絡した…結果、事故で行方不明。

 タツキは一人で自転車に乗って堤防に来たと。


 学校の生徒も、ワタシとヨミを疑っちょったけど…


 それどころやなく疑った人がタツキのお母ちゃん。


 夜のスナックの仕事をしてシングルマザーでタツキを育てよったらしい。


 スナックの客がネットで、イジメでの事件性疑惑や警察の隠ぺい疑惑を拡散したけど…

 再捜査は行われる事なく…

 2年後、タツキの母ちゃんは、タツキと同じ場所で自殺した。


 罰は受けなかったけど…


 ワタシが罰を受けちょったら、タツキのお母ちゃんは死んでなかったかもしれん。


 ワタシは一心不乱にグレまくった…


 どう、まともに生きればえいが…?


 罰を受けてない人間が…?



「いかん、京極に頭叩かれて、のびちょった…」


 ん? なんやこれ?


京極茜「セカイセイハ? なんで高知にいるんだよ!?」

後藤朝子「京極ごろしに決まってんだろぉぉお!!!」


 ポン刀女が、京極の鉄警棒とで殺りあいゆう?


 ワタシが目覚めたのに誰も気づいてない?


 へへ…


 京極茜… よくもワタシを殴ったな…? ワタシも混ぜや…


 ガン!!!


 寝た姿勢の一葉の鉄スパナ🔧のフルスイングが京極の右スネを襲った…


「いっっででええええ!!!」


 京極は右スネを抑えながらジャンピングを繰り返す…

 起き上がる一葉…


「『卍』スカジャンの京極茜… おんしゃあならワタシをばっしってくれるか?」


 「全国制覇」と背中に書かれた白装束を羽織った下に黒ビキニの後藤朝子は、右手に持った日本刀の刃先を一葉に向ける…


「田舎もん… オメエ…なんて事してくれるんだ?」


 一葉は黒い手袋を両手にハメながら、

「あ?」


 後藤朝子は凄まじいガンを飛ばして、


「日本頂上 決戦タイマンの邪魔しやがってぇぇ…!!」


 日本刀を一葉へ振り落とす!!


 しかし!!


 ガチン!!


 おどろく後藤朝子…


「スパナの二刀流のクロスでアタイの太刀を受け止めやがった?」


 一葉の両手の手袋に握られた、二つのスパナとポン刀の刃に青白い電流が見える…


「なんだこれ?」


「おまえ終わり」


 ス―――っと円の動きで… 両手に持ったスパナの先を後藤朝子の腹にピタッ


「⚡べべべべべべべえべべべべ⚡◍◍」


 後藤朝子は背筋を伸ばして振動する!


「腰のポシェットにあるバッテリーをスパナに直結させちゅう…」


 近間純… 遠くから煙草を吸いながら一葉を見て…


「あのカズハの動き…武術太極拳? 電流と太極拳か? とりあえず足が逝った京極を潰すには十分の兵隊はおるしな… おい! おまえら一斉だ! 全員で京極をしばきまわせ!!」


 シ―――ン


「あ? なんだ?」


 後ろを振り向くと…


 目の前には唐草模様…


「え?」


 上を向くと…


 ギョロ目が見下ろしている…

 その目を見た近間は、

「でけえ… その巨体もしかして…? 京極の動画に映ってた…?」


「どけ…」


 近間はサッと避ける…


 美園礼子の立っていた向こうには…


 暴走族『うず』と『魔流墓露マルボロ』の兵隊が全員、半殺しでひろめ市場内のあちらこちらに散らばってる無惨な光景の中…

 立っている4人の暴走族『聖浄姫せいじょうき』の内の、姫と書かれた半キャップヘルメットの女は木刀を近間純に構えていた。


姫ヘルメット「これ… もしかして四国のボスの近間もれんじゃね?」


 近間はタバコを吸いながら姫ヘルメットを見て、

「さんごは?」


姫ヘルメット「え? いないよ、はぐれた」


「じゃあ… 『聖浄姫せいじょうき』の残りカスのおめえらが、『渦』と俺の『魔流墓露』やったのか?」


姫ヘルメット「だって、あのマンモス(美園礼子)が加勢しないと殺すって言ったもん、ほとんどマンモスがやったけど」


 近間は落ちていた金属バットを拾って、狼の様な眼で睨みつけ…


「オメエいい度胸やな? 『聖浄姫せいじょうき』の総長に無断で、三県連合を破棄して俺に挑んで来るとはな?」


 すぐに姫ヘルメットは床に木刀を置き、


姫ヘルメット「待って! 近間さんには絶対に刃向かわないですよ!💦」


「さんごは、この近くにいんのか!?」


姫ヘルメット「うん! さんごは高知駅でハグれました!」


「さっさとさんご呼べ!! アイツらと戦わせろ!!」


 その一瞬!


 ひろめ市場の壁からトラックが!!


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