★★ Very Good!!
罪深き愉しみとしてのミステリー 戸松秋茄子
ミステリーとはそもそもが罪深き愉しみだと思います。
人の死をパズルのように弄び、読者の知的好奇心を満足せしめることを目的としたジャンルなのですから。
そうであればこそ、書き手の良識が試されるジャンルでもあります。
倫理的に正しいことしか書いてはいけない、ということではなく、エンターテインメントとして読者を不快にさせない配慮があるべきということです(もちろん、誰も不快にさせない作品はあり得ませんが)。
人間の暗部を描きつつそれを反面教師とし、探偵の「説教」で帳尻を合わせるのもひとつのスタンスでしょう。
また、そもそも殺人を扱わない。いわゆる「日常の謎」に終始させる――というのもひとつのスタンスです。
しかし、この作品は第三のスタンスで書かれています。それは、どういうものか。
端的に言えば「ブラックコメディ」ということになります。
作中で行われる不道徳、犯罪行為を黒い笑いに包んで描いているのです。
ミステリーにはたしかにそういう伝統もあり、いわゆる「バカミス」と呼ばれる作品はしばしばそういう不謹慎な笑いを伴います。
露悪的なまでの人間の悪性の強調、デフォルメ、それがもたらす笑い。
また、「ミステリーとはこういうものなんだよ」という自虐の笑いでもあるでしょう。
フィクションとはいえ、人の死をネタにして愉しんでしまえる不謹慎さ。
それもまた人間の一面であり、無視できない一面でし…
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