第11話 元魔王様は恋をするには若すぎる〜婚約破棄は計画のうち〜 5,000文字ほど
- 1話 私の秘密 -
高校生って、知っていますか。前世で何度仲間に問いかけただろうか。けれど、私のこの世界での仲間は、誰も分からないと言う。当たり前だ。この世界はもう、私のいた平和な世界では無いのだから。そして私は、仲間に囲まれ、ある意味孤独な死を迎えた。
少し前まで、この世界では世界的な戦争が起きていた。魔力で体が構成されている魔族、魔物達と、人間達の戦いだ。
その戦争の始まりは、魔族に属した裏切り者の人間がいたと言うこと。その女は人間なのに、人間の敵をまとめ、魔王として君臨したのだ。その裏切り者を、いつまで経っても小競り合いの無くならない魔の国と人間の国を鎮めるために、勇者が倒した途端、戦争は一気に激化した。勇者は戦争を止めようと一生をかけたが、その悲願は遂に叶わず、10年以上前に死んでしまったらしい。
人々は勇者の努力を讃え、これからは勇者の願いを継ぎ、魔を名乗るものを滅ぼすことを誓った。
……というのは少し間違いで。勇者のおかげで、人間達がいい方向にまとまったのは事実だ。どこが間違っているのかというと、魔王が裏切り者だということ。確かに彼女は人間の敵である魔に属するものの王として君臨したが、決して人間達の敵になったわけでは無い。むしろ、あまり人間を襲わないように注意していたくらいだ。
どうしてそんなに誰も知らない昔のことを詳しく知っているのか。それは簡単だ。それは私が、前世でその魔王だったからだ。
前世の私は、最初から魔王だったわけでも、この世界にいたわけでも無い。私は、別の世界で高校に通っていた、普通の少女だった。少女というと何だか違和感のある大人びた性格だったが、私は確かにあの世界で学生をやっていたんだ。
暖かい家族や優しい友人達に囲まれ、幸せな日々を送っていたある日。少し薄暗い帰り道を歩いていたとき、私は何か深い穴に落ちた。気がつけば、もうそこは見慣れない森の中で。そんな中、1人の魔族に出会って。彼はかなり強く、私に優しく接してくれた。今思えば、彼は私に、友人以上の感情も抱いていたのでは無いかと思う。
彼の屋敷で暮らす中、私は沢山の魔族や魔物に会った。そして、彼らはことごとく私に忠誠を誓ったのだ。はっきり言って、寂しかった。優越感がなかったと言えば嘘になるが、私はやっぱり家族に会いたかったし、友達が欲しかった。わけもわからず落ちてきたこの世界で、一人ぼっちになった気分だった。
それでも、私は努力を続けた。私を慕ってくれる生き物達には傷ついてほしくなかったから、必死に平和になるように努力した。そして私は、突如侵入してきた勇者に、殺された。
- 2話 実行 -
目を覚ますと、私は新たな命としてこの世界に生まれ変わっていた。男ではなく、前世と同じ女として生まれ変わっていた時は、少し安心したものだ。もし男に生まれ変わっていたら、見た目は男、中身は女……なんておかしなことになりかねない。異世界転移や転生に関してはもう驚かないが、そこは少し心配だった。
私が転生したのは、とある人間の国侯爵家の娘だった。ローズ・ホワイトという新しい名前を得た私は、少し違和感を覚えたが、すぐにその家に馴染むことができた。かなり高い身分の貴族に生まれてしまった私は、若くして婚約者を得ることとなったのだが、それがまた厄介で。
私が婚約者としてあてがわれたのは、この国の第一王子、アーロン・ネモネ様だ。婚約者であるからには、幼い頃からたまに会ったりはしていたのだが、わかったのはアーロン様がかなり騙されやすい性格だということ。それは、本当にこの人をこの国の王様にしてもいいのかと思うほどで、すぐに騙されていた。
困ったのは、私のことを信じないくせに、周りの人の言うことは信じ、きちんと事実を見ることができなかったということ。私はそのせいでいつも苦労してきた。私の証言を信じずに周りの人の言うことばかり信じるから、不仲説まで流れたほどだ。
戦争は不気味なまでに、急に落ち着いた。そのおかげで、未だ不安は残るものの、世界は平和ボケしてしまったようだ。この国の王子様も、いずれは自分が一つの国を背負って行かなければならないという自覚がないようだし。
私は政治に関することは、ほとんど私を拾ってくれた人に任せていたから、政治の辛さなどはよくわからない。それでも、大変なものであることくらいは、そばで見てきたからよく知っている。
個性の強い魔族達をまとめ上げるのは大変だっただろうし、苦労をかけたと思う。私自身も、少しは苦労をしたし、多少はしんどかった。それでも、仲間がいたから頑張れたんだ。そう思うと、前世の私はかなりの幸せ者だったようだ。
「ローズ」
後ろから名前を呼ばれて振り返る。そこにいたのは、豪華に着飾ったお父様とお母様だった。
「支度は済みましたか、ローズ」
お母様はにこりと笑うこともせずに、私に問いかけた。
私はお父様もお母様もあまり好きではない。いつだって遊んでくれたことはなかったし、笑いかけてくれたこともない。この世界の貴族ではそれが当たり前のようになっているのかもしれないが、前世の記憶を持つ私にはよく理解できなかった。
この環境は、あまりにも私に合わない。だから、私は今日、とある作戦を実行する。
- 3話 言いがかりと侵入者 -
私たちは今日の朝、唐突に王城に呼び出された。私はその理由をもう知っている。私の大切な人から聞いたのだ。私の婚約者達の企てを。
王城に着いた途端、私達は衛兵達に囲まれた。槍を向けられ、お父様とお母様は驚いて、キョロキョロしている。
今、王城には魔国の今の王様がきているそうだ。それなのに、これはいったいどういう事態なのか。自国の恥を晒すつもりか。
「ローズ・ネモネ」
兵達に誘導されて謁見の間につくと、怒りのこもった声で名前を呼ばれ、上を見上げる。すると、玉座へと続く階段の半ばに、憎しみに支配された私の婚約者、アーロン様が立っていた。その横には、見覚えのある女の姿もある。
彼女の名前は、確かローイエ・ストック様。隣国の王女様だ。最近この国に留学に来ている彼女は、最近アーロン様と仲良くしていらっしゃると噂が流れていたが、どうやらそれは本当だったらしい。アーロン様の腕を掴み、うるうるさせた目で私を見下ろしている。
「お前、ローイエ様に暴力を振るったらしいな」
証拠もないのに、よくそんなことが言えるものだ。けれど、確かにローイエ様の頬は腫れている。大方何かにぶつけたり、自分で叩いたりしたのだろう。けれどまあ、ここまでは予想通りだ。
「お前との結婚は取りやめだ。全く、昔から俺のいうことを信じず、自分の罪も認めない女だとは思っていたが、王女に不敬を働くなんてな……」
呆れたようにアーロン様は頭を押さえる。
「ああ、そうだわ。ご両親は関係ないから許してあげるけど、あなたは国外追放だからね。ロ、オ、ズ、さ、ま」
……。何がしたいのだろうか、こいつらは。この男は。証拠もないのに、私を貶めようとする頭のおかし……王女様のいうことを一方的に信じたばかりか、私を国外追放だなんて。
まあ、今更そんなことはどうでもいい。馬鹿なことをしているとは思うが、私にとってはむしろ好都合だ。
私は思わず笑ってしまいそうになる口元を隠すと、入口の方を横目で見た。そろそろ彼が来る頃だろうと思ったからだ。
バンッ。大きな音がして、扉が勢いよく開く。そこにいたのは、星空のように美しい銀の髪を持つ、真っ黒な格好をした男だった。眼鏡をかけた彼は、鋭い目つきで私たちを見つめている。
「失礼する」
彼は低い、怒りのこもった声でそういうと、ズカズカと私たちに近づいてきた。
- 4話 女王陛下 -
彼は私の目の前で止まると、ふわりとひざまづいた。そして、頭を下げ、地面に手をつく。一国の主人がする行動とは思えないそれは、明らかに私への敬意を示していた。
「ど、どういうことだ。魔国の王が、ローズにひざまづくなんて……」
周りの人たちはポカンとして私たちを見つめている。けれど、私は微塵も驚きはしなかった。私たちは数日前から、文通を交わしており、今日のことを約束していたからだ。
私を拾ってくれた魔族の彼が、新しい魔国の王様になっていたと知ったのはつい最近のことだった。魔国と人間の国はやっぱり仲が良くなかったし、せいぜい少し交易をしているくらいの仲では、王様の顔を見る機会などなかったからだ。
私は何もする気はなかった。会いたい、話をしたいとは思ったけれど、前世のことは前世のことだと思っていたし、私がつぼみだと言っても、信じてもらえるわけがないと思っていたからだ。
けれど、彼は私を見つけてくれた。王城に婚約者に会いに来ていた私とすれ違っただけなのに、私がつぼみであると気が付いてくれたのだ。魔族には何か特別な能力でもあるのだろうか。
家に帰ると、机には魔法で届いた手紙が置かれていた。彼からの手紙だった。やっと会えた、王子達がこんな計画を企てている、それに乗じて国に帰ってこないかというものだった。
私は、あらかじめ返送用の魔法がかかっていたその手紙を通じて返事をした。そして、私たちの文通が始まったのだ。と、いっても、数日間のものだが。
「お迎えにあがりました、女王陛下」
あなたに女王陛下と呼ばれるのは慣れないから嫌ね。いつもは名前で呼んでくれたのに。けれど、これも演技のうち。仕方ないわ。
「私国外追放になったのよ。だから、あなた達の、私たちの国に帰りましょうか」
この国に愛着がないわけじゃない。人間に囲まれた久しぶりの生活は、嫌なものではなかった。食事も服も前世のように周りの人たちに合わせてもらったりして迷惑をかけることはなかった。それでも、やっぱり私の居場所はあそこなんだ。仲間達の待っている、あそこなんだ。
「参りましょう」
私がそう言って手を差し出すと、彼は私の手の甲にそっとキスをした。その瞬間、私たちの姿はその場から消えていた。
- 5話 かわいそうな私 -
次の瞬間には、私たちは見慣れたお城にいた。ここはその一室で、おそらく彼の私室だろう。前世で、彼が私が過ごしやすいようにと建ててくれた城だ。懐かしい。
「やっと帰ってきたのね」
私はにこにこ笑っていた。嬉しくて、暖かくて。彼は立ち上がると私の手を引き、大きな椅子に腰掛ける。そして私を抱き抱えると、自分の膝の上に座らせた。
「ちょ、ちょっと」
ななななな、なにっ。私は驚いて彼の膝から降りようとするのだが、私を抱きしめる彼の腕がそれを許してくれない。
「好きだ、つぼみ」
思わずピタッと動きが止まる。何と発言すればいいのかわからない。固まってしまう。え、ちょっと待って。そんなの知らないんですけどっ。
「好きだ。もうどこにも行かないでくれ」
どうし、て。どうしてそんなできないことを言うの。貴方は魔族、私は人間。あまりにも寿命が違いすぎる。貴方はこれからも生き続けるのでしょうけれど、私はあと数十年もすれば死んでしまうのに。私だって一緒にいたいわよ。でも、できないのだから仕方がない。
「と、言うわけだ。俺の寿命を半分こしようか」
「……え」
ちょっと待って、それって……。いやいや、そんなまさか。魔族は結婚した相手と寿命を分け合うって聞いたことがあるけれど、まさかそんな……。
「ダメか」
「えっ、だ、ダメなことないよ」
あ、しまった。私、この流れだと……。
「本当か」
彼の表情がぱああっと明るくなる。
「一生一緒にいような」
やっぱり、プロポーズだったか……。
別に、彼のことが嫌いなわけではないの。でも、なんて言うかね……。困るもの。彼と国外追放になった私では、身分が違いすぎるし……。いや、でも、魔国での結婚は身分関係はないんだよな。で、でもっ、彼は王様で忙しいし……。あ、でも、前世でも彼が王様みたいなものだったな。
……あれ、もしかして、困ること何にもない、とか。
「好きだよ、つぼみ」
彼は私の頬に優しくキスを落とす。それは、手の甲に演技でしたそれとは全然違って。
だだだだだめよっ。そんなのいいわけっ……。あれ、でも、急に人間の私が魔王になるとまたややこしいことになるかもしれないし、私が魔国で彼のそばにいるにはこれが一番……。って、彼のそばにいることを一番に考えてる私って、なんなのよっ。
「愛してる」
わ、私どうすればいいのっ。誰か教え、ちょ、ちょっと待って、ほっぺにキスしないでっ。た、助けてえっ。
悪役令嬢ですっ! 空月 若葉 @haruka0401
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