人を殺すとはどういうことか。戦争を舞台にした心の物語

読み終わった時、その重厚さに満足感でいっぱいでした。敗戦の色濃いクレイ王国。この国が持つ「カムイ」という特殊な力も軍事力として持っており、退役軍人であるタケキも少年兵としてその力を行使させられていました。敗戦から10年経ち、再びカムイの力を軍事利用する組織に立ち向かう為に、タケキはもう一度人を殺す覚悟を決めます。 

そしてもう一つキーワードとなってくるのが、「リザ」という不思議な女の子の存在。彼女は遥か昔にタケキが殺した少女であり、分離してしまった肉体を探して自分を殺してほしいと願います。

再び戦場に立つこととなったタケキと、ヒロインのホトミ。スピーディーで無駄のない戦闘描写と共に、「人を殺すこと」の罪を背負って立ち向かっていくタケキ達の姿には、軍人としての強さと人間としての優しさを感じます。多くの犠牲が出たとしても、心を殺して平和の為に立ち向かっていく登場人物の姿には読者もつい引き込まれてしまい、戦争という舞台の重みがのしかかってきます。
この揺れ動く感情と、有無を言わせぬ残酷な戦場の描写が見事で、人の生死について考えさせられる物語です。

また、自分を殺してと願うリザに対しても読者は感情移入してしまい、彼女の境遇を考えると殺してあげた方が良いけど、殺したくない…と葛藤してしまう点も「人を殺すとは何か」というテーマを訴えかけてきます。

難しいテーマですが、しっかりと書ききり、まとめ上げている点が素晴らしいと思います。ラストは綺麗にまとまっていて読後感も満足。
かなり重厚な世界観と設定ですが、情報量が整理されている為、SFが得意でない私でもスラスラ読めます。1話ごとの分量も丁度良い。
まずは一度読んでみることをおすすめします。損はさせません。

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