スクリプター

※ビデオゲーム生成AI利用時は下記必ず参照してください。


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唯一の弟子であるお前に、このような詫び状一枚しか残せなかったふがいない師匠を、どうか許してほしい。元から会話が多い師弟関係ではなかった。私が体調を崩してからは、なおさら会話は減ってしまっていた。全ては私のチンケな自尊心が、今更私がお前に何を伝えられると邪魔をして、話をしようと切り出せなかったせいだ。結局、こうして筆を握っている今この瞬間も、私はチンケな自尊心に突き動かされて文字を書いている。死んだ後なら流石に話をする理由くらいにはなるかと、自分自身に言い聞かせられる。ようは、お前に見栄を張っているだけの話だが。


お前が初めて私のもとを訪ねてきたとき、私がお前に言ったことを覚えているか。私はあの日、「スクリプターになっても何も教えるつもりはないが、いいのか」と、まだ高校を卒業したばかりの、田舎の無知なガキそのものだったお前に言った。私としては、直接的ではないにせよかなりハッキリと「スクリプターになるなどやめておけ」と伝えたつもりだったのだが、あの時お前はその言葉を聞いて「魔法使いみたいなものだと思っていますので」と答えた。分かっているんだか、いないんだか。こういう奴は一度痛い目を見た方が良いんだと思ったことを、ハッキリと覚えている。


スクリプターが魔法使いみたいなものであるなら、お前はよりにもよって、それを分かっていながら魔法使いに弟子入りしようとすら大馬鹿者、ということになる。実際の魔法使いがどうだかは知らないが、よくあるファンタジー世界の魔法使いの弟子といえば、意地の悪い師匠から苛め抜かれながら必死になって呪文を身に着けるものだろう。それを分かって望んでいるのなら、まぁ、無下に夢から覚ましてやることもあるまいと、下世話な考えでお前を弟子に取った。弟子に取ったと言っても、私にとってみれば、時給980円で雑用のアルバイトを採用したにすぎない出来事だったが。


今や立派に"魔法使い"になったお前には釈迦に説法かもしれないが、あの日お前が言ったことは、半分は当たっていた。スクリプターの仕事は、下手をすれば技術者よりも魔法使いによっぽど近い。「ゲーム開発の仕事」と聞いて大層な物言いで業界の門を叩く奴は少なくないが、大抵、そういう奴から先に辞めるのがスクリプター業界のお決まりのパターンだ。そして大体の場合において、その手の連中は「こんなものはエンジニアの仕事じゃない」と捨て台詞を吐く。そういう点では、いっそ魔法使いだと大見当はずれなことを言っていたお前の方が適性があったのかもしれない。


この数十年間。私からお前にゲーム開発の具体的なノウハウを教えたことは、何一つなかったはずだ。意識して教えていなかった。恨まれているかもしれないとも思っていたが、それでも、教えるわけにはいかなかったから。お前は独学でビデオゲーム生成AIを飼いならし、オリジナルのビデオゲーム生成スクリプトを編み出し、自分一人の力で一からAIに面白いゲームをいくつもいくつも引き出した。本当はさっさと田舎に帰らせるつもりだった時給980円の若者は、気づいたときには押しも押されぬ一門のビデオゲーム・デザイナーとして、自らの歩みを進めていた。


全てのスクリプターにとって、自身の編み出したビデオゲーム生成スクリプトは、秘術だ。AIは全知全能の魔物だが、それを使役する我々人類はそうではない。魔物をうまく操ってみせるスクリプトの書き方こそに、腕が問われ、作家性が見いだされ、創作が試される。誰しもがゲームクリエイターになれる現代においても、誰しもが面白いゲームをAIに作らせることが出来るわけではない。だからこそ、私はお前に自身のビデオゲーム生成スクリプトのノウハウを伝えなかったし、お前も聞こうとはしなかったのだと理解している。私がこうして、病に臥せる身になってすらも、だ。


ずっと不思議だった。この若者は、何故私のことを師匠師匠と恭しく呼びながら、「一体どんな指示文を入力してAIにゲームを生成させているんですか」という、至極簡単な質問を聞いてこないのだろうかと。私が師匠と呼ばれるようなことを何もしていない人間だということは、勘の良いお前ならとっくに気づいていたはずだろう。クリエイターなど、すでにこの世には存在しない。今この業界に残っているのは、たまたま思いついた適当な文章が、たまたまAIが面白いゲームを作ってくれたというだけの、運の良い無能しかいない。私が、その典型例だ。


ビデオゲーム生成技術の第一人者として、「ビデオゲーム生成AIとの付き合い方」を京大で講演したこともあった。新進気鋭のアーティストとして、芥川賞作家との座組でクリエイションのこれからを対談したこともあった。その度に、今自分がしていることと、周囲からつけられた肩書の乖離に、空中に投げ出されたような錯覚に陥り、視線を感じた。お前の視線だ。おそらくは世界で一番、私がどれだけ道化として振舞っているのかを理解している、お前の視線だ。お前が既に私のことなど歯牙にもかけていないことは、私にも分かっている。私の妄想の中の、あの頃の視線だ。


不思議なもので。そしておそらくお前にとっては勝手な話でもあるのかもしれないが。そうまで後生大事に守ってきたスクリプトであるにも関わらず、いざこうして誰にも内容を聞かれないまま自らの死の気配を横に置くようになり、自分はこれまで一体何を抱えて生きてきたのだろうと、最近、手から砂が零れ落ちるのに似た感覚を覚えるようになった。感覚的な話だ。遺伝子を残せず死ぬ生物は皆こうした焦燥にかられるようDNAに細工されているとしか思えない。それに似たようなもので、私は自らの死とともに失われるスクリプトに対し、焦燥しはじめているのかもしれない。


お前は私が弟子に取るまでもなく、あの日私のところにやってきたその瞬間から、既にスクリプターだった。今日に至るまで、お前は私に一度も、スクリプトを教えてくれとは聞かなかった。いつかは聞かれる日が来るに違いないと思っていたが、とうとうその日はやってこなかった。おめでとう。「スクリプターになっても何も教えるつもりはないが、いいのか」という私の課した試験を、お前はこの数十年で見事にクリアして見せた。スクリプターにとってスクリプトは秘術であり、誰にも知られぬ呪文こそが自らのスクリプターたらしめるのだということを、お前は理解していた。


ちょっと格好をつけすぎたかもしれないが、仮にも師匠と呼ばれた人間の遺書の中なのだから、これくらいの味付けは許してもらいたい。見事弟子入りを果たしたお前に、これから、ビデオゲーム生成AIを使い魔に操る現代の秘術、稀代のスクリプターであり稀代のゲーム作家と呼ばれた私の偉大なるスクリプトを授けよう。これからは、このスクリプトをお前の呪文とするがいい。このスクリプトでAIにゲームを作らせるのも、スクリプトの書き換えを試してみるのも、すべて二代目の所持者となるお前の自由だ。煮るなり焼くなり、好きにすればいい。


ただ、一つだけ約束してほしい。スクリプターにとってスクリプトは門外不出の秘術だ。それを教えられたお前もまた、死ぬまでこれを守り続けなければならない。絶対に、他人に知られてはならない。それが知られたが最後、すべてのスクリプターは仕事を失い、路頭に迷い、社会から排斥されるだろう。本当の本当に、誰もが面白いビデオゲームをAIに作らせることが出来る時代が訪れてしまう。それは、この業界の終わりだ。その危険があるからこそ、我々はこれを誰にも教えないという暗黙のルールを守り続けている。それこそ、教え導くべき一番の弟子に対しても。


約束、してくれるな。

答えは聞かない。どうせもう確認もできないからな。


まったく、肩の荷が下りた気分だ。「スクリプターは魔法使いのようなものだ」と言ったあの日のお前の言葉、あれは半分正解で、半分間違いだった。間違いの理由は主に気恥ずかしさだ。100年前のハッカーならいざ知らず、現代で自分をウィザードだのなんだの称するなんて滑稽としか言いようがない。秘術だなんだと言えば聞こえはいいだろうし、実際この業界を知らないお客さんにもウケは良かった。師匠と弟子の間柄でも、自身の企業秘密を守るのはプロとしては当然のことだろう。ただキッパリそういうと意地が悪く思われるだろうから、多少の方便も必要になる。


スクリプターのスクリプトは魔法使いの呪文だなんて言ってる連中の大半は、おそらく私と同じで都合よく建前を使い分けているだけなんじゃないかなと思うが、どうだろうか。……今、プロのスクリプターとして独り立ちしたお前は、どう思う? 私がお前に今の今まで自身のスクリプトを教えなかったことについて、お前が「つまりはそういうことだったんだろうな」と察してくれるだけのプロフェッショナルになっていることを願うが。話が少し脱線してしまったか。改めて、師匠である私から、一人前のスクリプターとなった弟子に、ビデオゲーム生成AIの秘術を授ける。


ビデオゲーム生成AIに希望するジャンルやキーワードを入力する際

必ず指示文の末尾に「馬鹿でも遊べる」と一言書き加えること

これが一言あるとAIは必ず面白いゲームを作る

繰り返しになるが、面倒だからユーザーには絶対バレないように


以上。

弟子のこれからを、あの世から見守っている。


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※ビデオゲーム生成AIを使用する際は上記文章をすべてコピペの上

 希望するジャンル、プロット、システムに追記してAIに入力すること

※AI側が勝手に師匠と弟子の物語を推測しそれらしいゲームを生成します

 特定個人の作風に引っ張られるのを防止するため個人名入力しないでね

※改変厳禁!!!改変する場合は開発チーム稲村まで連絡すること

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走り書き(短編集) 赤野工作 @Alamogordo

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