第10話謀議と決断

ミハナとの激しい戦いを終えた後、龍河たちは急いで要塞を後にし、リシャールのもとへ向かうことにした。怜に似た少女は一時的に安全な場所に隠し、その存在をリシャールには伝えないことに決めた。彼女の存在が、今後の戦いにどう影響するかはまだ不明だったからだ。


リシャールの居城に到着すると、龍河たちはすぐに彼との面会を求めた。リシャールは、龍河たちの到着を予期していたかのようにすぐに応じ、彼らを広間へと招き入れた。


「龍河、ベルモンド。無事に戻ってきたようだな。」リシャールは冷ややかな笑みを浮かべながら二人を迎えた。「国境ではなんかあったか?」


龍河は、要塞での出来事を簡潔にリシャールに伝えた。しかし、少女の存在についてはあえて触れず、ミハナとの戦闘についてのみ報告することにした。


「ミハナは非常に強力で、厄介な存在だ。」龍河は冷静に説明した。


リシャールは興味深げに頷きながら、「ミハナか……あの男は確かに手強い。だが、ヒト族でありながら魔族大陸にいることが非常に奇妙だ。彼が何を企んでいるのか、まだ全てはわかっていないが、その存在を軽視するわけにはいかないな」と呟いた。


「確かに、彼の存在は謎に包まれている。だが、我々がもっと警戒すべきことがある。それは、彼が人族と魔族の間に何かしらの大きな計画を持っている可能性だ。」ベルモンドが付け加えた。


リシャールはしばらく考え込んでから、静かに口を開いた。「ミハナの行動が人族と魔族の間に影響を与える可能性があるならば、我々はそれに対抗するための行動を起こさねばならない。だが、その前にもう一つ重要なことがある。」


リシャールの言葉に緊張が走る。その時、広間の隅からもう一人の人物が姿を現した。それは、魔族大陸で第3位の魔王候補であり、強力な魔女として知られるセリーヌだった。


セリーヌは冷たく微笑みながら、龍河たちに近づいてきた。「人族への侵攻を提案する時が来たようだね、リシャール。」


「侵攻だと?」龍河は驚き、セリーヌの提案に疑念を抱いた。


「そうだ。国境での出来事を考えれば、人族が我々に対して何かを企んでいるのは明白だ。だからこそ、我々が先手を打ち、人族に攻撃を仕掛けるべき。」セリーヌは冷静に説明し、その目には決意が宿っていた。


ベルモンドはその提案にすぐさま反対の意を示した。「待て、セリーヌ。まだ全ての状況が明らかになっていない。人族への侵攻は過激すぎる。我々が無駄な戦いを仕掛ければ、多くの命が失われることになる。」


龍河もセリーヌの提案に賛同できず、口を開いた。「ベルモンドの言う通りだ。今はまだ、慎重になるべき時だ。ミハナの動きについてもっと調査し、我々の対処方法を考え直すべきだ。」


しかし、セリーヌは二人の意見に耳を貸さず、強硬な態度を崩さなかった。「君たちが臆病になっているのは分かるが、私は魔族の未来を見据えている。我々が攻撃を仕掛ければ、敵は躊躇するはずだ。それが我々に有利な状況を作り出す。」


リシャールはこの議論を冷静に見守りながら、最後に口を開いた。「この問題は重要だ。だからこそ、ここにいる魔王候補たちの意見を集め、多数決で決めることにしよう。」


その言葉に、広間に集まっていた他の魔王候補たちもざわめき始めた。第2位のエルヴィス、第4位のバルガス、第5位のルシアらも、セリーヌの提案に関心を持っていた。


多数決が行われると、セリーヌの提案は圧倒的な支持を受けた。龍河とベルモンドの反対は少数派に過ぎず、人族への侵攻が正式に決定されてしまった。


「これで決まりだな。人族への侵攻を開始する。我々は全力で準備を整える。」リシャールは冷静な声で結論を下した。


龍河はその決定に深い不安を覚えた。ミハナの陰謀が未解明のまま、人族との戦争が始まることになった。これがどのような結果をもたらすのか、誰も予測できない。しかし、今の状況では、彼はその決定に従わざるを得なかった。


「これで終わりではない……」龍河は心の中で決意を固めた。「まだ、やれることがあるはずだ。」


広間を後にした龍河とベルモンド、そしてシーラとバトラーは、これからどうすべきかを話し合いながら歩いていた。彼らはこの戦いに巻き込まれながらも、真実を追求し、自分たちが信じる道を貫く覚悟を決めていた。


「人族への侵攻が決まったが、俺たちはまだやるべきことが残っている。怜に似た少女のこと、ミハナの本当の目的、そして……この戦争をどう終わらせるかを考えなければならない。」龍河は仲間たちに向けて強く言った。


「そうだな。俺たちができることを見つけて、最善を尽くそう。」ベルモンドもその言葉に同意し、彼らは新たな決意を胸に、次の一歩を踏み出した。

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