第7話北の国境と謎の少女
魔王候補たちの集まりで、龍河の再登場に驚いたリシャールは、彼に一つの試練を課すことを決めた。その試練とは、人族との国境にいるという謎の少女の正体を明らかにすることだった。リシャールはその少女について、多くの者が興味を抱いていると語ったが、その理由については言及しなかった。
「人族との国境……そこには何があるんだ?」龍河はリシャールに問いかけた。
「北にある国境地帯は霧が立ち込め、視界が非常に悪い場所だ。その中に、我々がまだ理解していない存在がいる。謎の少女だ。」リシャールは冷徹な目で龍河を見つめた。「その少女が何者なのか、そして彼女が我々にとってどういう意味を持つのかを突き止めること。それが今回の試練だ。」
龍河はその言葉に少しの不安を感じたが、それを表に出すことなく頷いた。「わかった。俺はその少女の正体を確かめてみせる。」
数日後、龍河、ベルモンド、シーラ、バトラーは北にある国境地帯へと向かった。道中、霧が次第に濃くなり、視界が遮られていく。辺りは静まり返り、不気味な雰囲気が漂っていた。霧の中に足を踏み入れると、冷たい空気が肌を刺し、音さえも吸い込まれるような静寂が支配していた。
「ここがその国境か……視界がほとんどないな。」龍河は周囲を見渡しながら言ったが、霧が濃すぎてほとんど何も見えない。
「この霧の中にその少女がいるというのか?」ベルモンドが問いかける。
「そうだ。この場所には人々が近づかない。霧の中で迷い、帰ってこない者も多いと聞く。だが、リシャールが言った通り、ここに何かがいるはずだ。」バトラーが慎重に言葉を選んで答えた。
四人は慎重に霧の中を進んでいった。やがて、遠くから微かに人の気配が感じられた。龍河はそれを感じ取り、足を止めた。
「待て、誰かいる……」
霧の向こうに人影がぼんやりと浮かび上がった。最初は遠くに見えたその影が、徐々に近づいてくる。やがて、霧が少し晴れ、その人影がはっきりと見えるようになった。
それは一人の少女だった。彼女は静かに佇んでおり、霧の中でもその姿ははっきりと見えた。長い髪が風になびき、彼女の目はどこか遠くを見つめているようだった。その瞬間、龍河は驚愕した。
「怜……?」
その少女は、紛れもなく龍河の親友である奏多琥太郎の妹、怜にそっくりだった。いや、むしろ怜そのものであるようにさえ見えた。しかし、ここは異世界であり、怜がこの場所にいるはずがない。
「龍河様、あの少女が……怜様に似ている?……」シーラが驚きの声を漏らす。
「どういうことだ……怜がここにいるはずがない……だが、あの姿は……」龍河は混乱し、戸惑いを隠せなかった。
少女は彼らに気づいた様子で、ゆっくりと歩み寄ってきた。その歩みは静かで、まるで霧の中に溶け込んでしまうかのようだった。龍河は何かを確かめるために一歩前に出た。
「君は……怜なのか?」龍河が尋ねると、少女は静かに微笑み、首を傾げた。
「私は……怜じゃない。でも、あなたを知っている気がする。」少女の声は穏やかでありながらも、どこか不安定な響きを持っていた。
「じゃあ、君は誰なんだ……?どうしてここにいる?」龍河はさらに問い詰めたが、少女は答えずにただ微笑んだだけだった。
「霧が……私を呼んでいるの……」少女はそう言うと、ふと空を見上げた。その瞬間、霧がさらに濃くなり、彼女の姿が再び霞んでいった。
「待て、どこへ行くんだ!」龍河が慌てて追いかけようとするが、霧が一気に彼らを包み込み、少女の姿は完全に消えてしまった。
「なんてことだ……」ベルモンドが呟いた。「あの少女は一体何者なんだ……」
龍河は立ち尽くし、心の中で様々な思いが交錯していた。怜に似た少女、彼女はただの幻なのか、それとも何か重大な秘密を抱えているのか。彼女が放った言葉とその存在が、龍河の心に深く刻まれた。
「この霧……何かがおかしい……」バトラーが慎重に霧の中を見渡す。「ここにはただの霧ではない、何かが隠されているようだ。」
「俺たちはもう少しこの場所を探る必要がある。」龍河は冷静さを取り戻し、仲間たちに指示を出した。「怜に似たあの少女が何者なのか、そしてなぜここにいるのか……俺たちの試練はまだ終わっていない。」
四人は再び霧の中を進み、謎の少女の痕跡を追うことにした。彼らの前に立ちはだかる試練は、ますます深い闇と謎を孕んでいる。しかし、龍河はこの試練を乗り越え、真実を明らかにする決意を固めていた。
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