第8話霧の要塞と錬金術師ミハナ

霧の中に消えた少女を追いかけるため、龍河たちはさらに奥へと進んでいた。しかし、霧がますます濃くなる中で、視覚に頼ることができなくなっていった。そこで、ベルモンドがその鋭い嗅覚を活かして、少女の匂いを追跡することにした。


「俺に任せろ。鼻が効くから、この霧の中でも少女の匂いを辿れるはずだ。」ベルモンドは慎重に鼻を使って周囲の空気を嗅ぎ分けながら、霧の中を進んでいく。


しばらく歩いていると、ベルモンドが足を止め、前方を指さした。「この先だ……何かがある。」


龍河たちがその方向に目を凝らすと、霧の中から徐々に巨大な構造物が浮かび上がってきた。それは要塞のように見えた。霧に包まれてはいたが、その威圧的な姿は隠しきれなかった。


「こんなところに要塞が……」バトラーが驚きを隠せずに呟いた。


「この要塞、何かおかしい……」龍河もまた不安を感じながら、要塞に近づいていく。重々しい門を押し開け、中に足を踏み入れると、彼らはさらに驚くべき光景を目にした。


要塞の内部は、一見して研究施設のような雰囲気が漂っていた。巨大なガラス容器や奇妙な機械が並び、棚には不気味な液体が入った瓶がずらりと並んでいる。室内には異様な静けさが漂い、ただ機械の作動音だけが響いていた。


「ここは……一体……?」龍河は警戒しながら周囲を見渡した。


その時、シーラが突然息を呑んだ。彼女の目は驚愕と恐怖、そして憎悪で見開かれていた。龍河がその視線を追うと、そこに立っていたのはあの少女と、もう一人の男だった。


「なんで……あなたがここに……」シーラは声を震わせながら、その男を指差した。


「シーラ、どうした?」龍河が不安げに尋ねると、シーラは一言、「あれは……私の父、ミハナです……」と呟いた。


龍河は信じられない思いでその男を見つめた。ミハナと名乗ったその男は、年齢を感じさせないほど整った顔立ちをしており、シーラと同じように鋭い目を持っていた。しかし、その目には冷酷な光が宿っていた。


「ミハナ……あなたがシーラの父親だというのか?」龍河は驚きと共にその男に問いかけた。


「そうだ、私はミハナ。錬金術師であり、この研究施設の主でもある。」ミハナは冷静に答えた。


シーラはその言葉に激しい怒りを覚え、震える手で拳を握りしめた。「あなたが……どうしてここにいるの?母を……あの母を殺しておいて……!どうして今ここに……!」


ミハナはシーラの怒りに対して微動だにせず、冷徹な表情を保ったまま答えた。「あれは必要なことだった、シーラ。お前には理解できないかもしれないが、あれは私の研究のためにどうしても必要な犠牲だった。」


「犠牲だと!?母を殺しておいて、その言い草は何ですか!」シーラは怒りに燃え、その場にいるのがやっとという状態だった。


龍河はシーラを落ち着かせるためにそっと肩に手を置いたが、彼女の怒りは収まる様子がなかった。彼女の瞳には、かつての家族への愛情と、それを奪われた憎しみが溢れていた。


「あなたが逃げた後、母はどれだけ苦しんだか……そして、私がどれほどあなたを憎んだか……!」シーラの声は次第に大きくなり、その瞳には涙が滲んでいた。


ミハナはその言葉に対して冷酷に答えた。「シーラ、お前はまだ未熟だ。私が成し遂げようとしていることは、全てこの世界の未来のためだ。それを理解するには、まだ時間が必要だろう。」


龍河はミハナの言葉に違和感を覚えながらも、冷静に状況を見極めようと努めた。「ミハナ、あの少女は誰なんだ?どうしてここにいる?」


ミハナは一瞬黙り込み、目を細めた。「あの少女か……彼女は私の研究の成果だ。お前たちにはまだ理解できないだろうが、彼女は特別な存在だ。」


「研究の成果……?それはどういう意味だ?」龍河はその言葉に不吉な予感を感じた。


ミハナは冷たく笑い、続けた。「彼女は私が生み出した存在だ。私の錬金術の極致によって作り出された、完全なる生命体だ。お前たちが知る現実の範疇を超えた存在だ。」


龍河はその言葉に寒気を感じた。目の前の少女が怜に似ているのは偶然ではないと悟った。彼女は何かしらの目的で作り出された存在であり、その背景にはミハナの歪んだ執念が隠されている。


「……そんなことが……」シーラは震えながらも父親を睨みつけた。「あなたは本当に……狂ってしまった……」


「狂っている?それはお前の視点だ、シーラ。だが、私は確信している。この研究が成し遂げられれば、この世界の未来は確実に変わる。それを理解するには、もう少し時間が必要だろう。」


ミハナの言葉に、龍河は今後の展開がただ事ではないと感じた。彼の研究が何を目的としているのか、そしてその少女がどのような役割を果たすのか――その全てがまだ謎に包まれている。


「ミハナ、お前が何を企んでいるのかは知らないが、俺たちはここで終わらせる。そして、シーラを……俺たちの仲間をこれ以上傷つけさせはしない!」龍河は刀を構え、ミハナに向き直った。


「終わらせるだと?それは無理な話だな、龍河。だが、私に挑むというなら、それを見せてもらおう。」ミハナは挑発的に笑い、手元にあった装置に手をかざした。


その瞬間、要塞の内部が震え、様々な装置が作動し始めた。霧がさらに濃くなり、異様な力が蠢き出した。


「覚悟しろ、ミハナ……!」龍河は仲間たちに合図を送り、戦闘態勢に入った。


シーラもまた、父親に対する怒りと憎しみを胸に、錬金術を発動させる準備を整えた。彼女の心には、母を失った悲しみと、父を討つ決意が交錯していた。

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