第4話獣人族の長 ベルモンドとの対決
獣人たちの群れが次々と打ち倒される中、一際異様なオーラを放つ男が、群れの中から姿を現した。彼の存在感は圧倒的で、周囲の空気が一変したのを龍河もはっきりと感じ取る。鋭い目つき、逞しい体躯、そして獣人特有の野性的な威圧感が辺りに充満していた。
「リューガ様、あの男には気をつけてください……」バトラーが龍河に警告する。「彼はベルモンド、獣人族の長であり、魔王候補の序列第六位に位置する男です。」
ベルモンド。その名前を聞いた瞬間、龍河は無意識に刀を握りしめた。相手は強敵であることが一目でわかる。だが、バトラーの言葉に続き、彼は重要な情報を伝える。
「そして、リューガ様……」バトラーは言いにくそうにしながらも続けた。
「実は、あなたはかつて魔王候補の中で序列第一位だったのです。」
「第一位……?」
龍河はその事実に驚愕した。自分が目覚める前、そんな地位にあったとは思いもよらなかった。
「そうです、リューガ様。しかし、あなたが長き眠りについたことで、その地位は他の者たちに奪われました。今では、あなたがかつての力を取り戻すことを誰もが待ち望んでいます。」
龍河はその言葉に心を揺さぶられながらも、今は目の前の敵に集中することにした。ベルモンドが一歩ずつこちらに迫り、その殺気は増していく。だが、何かが異常であることに気づいた。
ベルモンドの目は、何かに取り憑かれたように虚ろであり、まるで正気を失っているかのようだった。突如として彼の姿が変わり始め、獣人の姿から巨大な狼へと変身していく。その力とスピードは圧倒的で、瞬く間にバトラーやシーラをも凌駕するものだった。
「リューガ様、下がってください!」バトラーが叫ぶが、その声が届く前にベルモンドは疾風の如く駆け出し、凄まじい速度で攻撃を仕掛けてきた。
龍河はその圧倒的な速度に一瞬動揺するが、次の瞬間、彼の中で一つの記憶が呼び起こされた。現実世界での自分。葛城龍河として生きていた頃、彼は「葛城流抜刀術」を修めていた。それは、瞬時にして敵を討つ、古くから伝わる剣術だった。
「今だ……!」龍河は心の中で決意を固めた。彼は瞬間的に構えを取り、その刀に全ての集中力を注ぎ込む。そして、葛城流抜刀術の第一の型――「迅雷(じんらい)」を発動させた。
一瞬の出来事だった。ベルモンドが襲いかかるその刹那、龍河の刀が光のように閃き、次の瞬間には彼の攻撃が止まっていた。ベルモンドの巨体が、一瞬で動きを止め、膝をついてその場に崩れ落ちた。
「お見事です、リューガ様……」バトラーが驚愕と共に声を漏らした。
倒れたベルモンドは、その場で狼の姿から人間の姿へと戻り始めた。虚ろだった目にも正気が戻り、彼は自らの手で顔を覆いながら、苦しげに呻いた。
「俺は……何を……」
ベルモンドの声には戸惑いがあった。彼は自分が何をしていたのか、理解できていない様子だった。そして、その目が龍河に向けられる。
「俺は……誰かに操られていた……そうだ、あの時……」
ベルモンドは記憶を辿りながら、何か重要なことを思い出そうとしていたが、その記憶はまだはっきりしていないようだった。
「操られていた……?」龍河はその言葉に耳を傾けた。「誰に……?」
ベルモンドは苦しげに頭を抱えながら答えた。「分からない……だが、何かが俺を操っていた。俺は……こんなことをするつもりはなかったんだ……」
その時、遠くから不気味な風が吹き抜け、龍河の心に一抹の不安がよぎった。誰かが、この戦いを裏で操っている――そう確信させるに十分な、ベルモンドの言葉だった。
龍河は自らの手で、ベルモンドを救い出したことに一瞬の安堵を感じたが、それ以上に、この世界に潜むさらなる危機を感じ取らざるを得なかった。誰が、何のためにこの戦いを操っているのか。その謎はまだ、闇の中に隠されている。
「とにかく、今は……君を安全な場所に……」龍河は、まだ混乱しているベルモンドに優しく声をかけた。
ベルモンドはそれに静かに頷きながら、再び自らの足で立ち上がろうとする。彼の目には、少しずつ正気が戻り始めていた。
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