Crossing of darkness

虎野離人

第1話最後の日

暗黒の空の下、二人の男が対峙していた。どちらも尋常ならざる力を宿し、それを誇示するように、目の前の敵を見据えている。一人は漆黒の甲冑を身に纏い、彼の手には血のように赤い輝きを放つ魔剣が握られている。もう一人は、闇に染まった瞳で、不敵な笑みを浮かべながらその剣を振るう。彼の名は勇者、かつては世界を救う存在であったが、今や闇に堕ち、全てを破壊しようとしている。


「お前とこうやって戦う時が来るとはな」


魔王は勇者を前にして、哀しげな表情を浮かべていた。彼の中には深い葛藤が渦巻いていた。目の前にいる男はかつての友であり、共に戦った仲間だった。しかし、今は敵として、世界の命運をかけた戦いを繰り広げなければならない。


「なんでこの世界に君がいる....。まぁ、関係ないか。この世界全部壊すだけだから」


勇者は不敵な笑みを浮かべ、魔王に向けて魔剣を振り下ろす。その動きは常人の目では捉えきれないほどの速さであり、強烈な殺気が周囲に充満していた。


「どうしちまったんだよ....」


魔王は呟く。かつての友が、なぜこうなってしまったのか、その理由が理解できない。だが、勇者は冷笑を浮かべるだけであった。


「どうもしてないさ....。早く死にな」


勇者は再び剣を構え、殺意を込めた一撃を放とうとする。その動きに合わせて、魔王もまた、自らの剣を振り上げた。


「くっ....。俺が目を覚まさしてやるよ」


魔王の声には決意が込められていた。彼は友を救うため、この戦いに挑んでいるのだ。剣が空を切り裂き、火花を散らしながら二人の刃が交差する。


「目が覚めたからこうなってるんだよ」


勇者の言葉が魔王の心に突き刺さる。二人の剣は激しくぶつかり合い、その衝撃波は周囲の大地を揺るがす。凄まじい戦いの中で、彼らはそれぞれの信念を胸に戦い続けた。


視点は突然変わり、静かな室内へ。重苦しい空気の中、龍河は目覚めた。目覚めと共に激痛が彼を襲う。胸を抑えながら目を開けると、目の前には見慣れた顔があった。そう、彼の相棒であり、親友である奏多琥太郎だ。


「ぐっ.....。いてぇーーーー」


龍河が呻くと、琥太郎は笑いながら言った。


「おーい、龍河.....。目覚ましなよ。レコーディング始まるよ」


「殴る事ないだろ。普通に起こせ」


「はいはい。起きるよ」


琥太郎は軽い調子で返し、龍河は苦笑いを浮かべながらベッドから起き上がった。二人は、音楽ユニット「KORYU」のメンバーで、共に多くのファンを魅了してきた。


「KORYUさん。レコーディング始めますよ」


スタッフの呼びかけに、二人は声を揃えて応える。


「「はい、今行きます」」


今日もまた、二人の新たな音楽が生まれようとしていた。だが、彼らにはまだ、この日が運命を大きく変える一日になることを知る由もなかった。


レコーディングを終えた後、龍河はふとしたことで琥太郎に呼び止められた。琥太郎は少し慌ただしい様子で話しかける。


「龍河、怜を迎えに行かんといけないんだよ」


「なるほど...。じゃあ、俺が行ってやんよ」


龍河は親友の妹である怜を迎えに行くことにした。彼女は、幼い頃からの知り合いで、兄の琥太郎同様、龍河とも深い絆を持っていた。


「ありがとう。怜も龍河を気に入ってるからきっと喜ぶよ」


龍河は笑顔で手を振り、怜が待っている場所へと向かった。しかし、その瞬間、彼の目に飛び込んできたのは、不規則に動くトラックだった。


「おい!れーーーーい」


龍河は全力で怜に駆け寄ったが、トラックが勢いよく二人に迫ってくる。その瞬間、龍河は目を閉じた。


再び意識を取り戻した時、龍河は見知らぬ場所にいた。洋風の館の一室で、彼の周りにはメイド姿の女性とスーツ姿の男性が立っていた。


「リューガ様。まだ目が覚めないのですね」


「ん......。俺は.....」


龍河は混乱しながらも、ゆっくりと状況を把握しようとする。しかし、見知らぬ光景に戸惑いを隠せなかった。


「えっ、起きたんだけど.....」


彼の声に応えるように、メイドが一歩前に出た。


「お目覚めですか、リューガ様」


「........えっ......誰........」


龍河は驚きと共に、目の前に広がる現実を受け入れざるを得なかった。死んでいるはずの自分が、なぜこの場所で目覚めたのか。そして、この場所は一体どこなのか。彼の新たな物語が、ここから始まろうとしていた。

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