ルーレット回して運任せに生き抜きます!

沢田真

第1話 不運から始まる異世界

 「ここは…」


 そこがどこなのか分からず動揺し涙声でつぶやく。


 そんな和樹が作り出した湿った音が響き渡り思ったよりも大きく聞こえ驚きを覚える。


 そこは真っ暗闇に包まれるだけで辺りを確認しても何もなく、物音ひとつ聞こえずしんと静まり返った空間。独り言がやけに虚しく大きく聞こえたのはこの空間のせいだろう。


 あまりにもの暗さにどうしても不安が渦巻いてきてしまう、そんな場所。それが見知らぬ場所だとなれば声が涙に濡れてしまうのは仕方のないことだろう。


 それでも和樹の意識ははっきりとしていて、それが次第に湧き上がる恐怖と困惑を加速させていく。


 そこへ突然、カツカツと固い床を叩くような音が聞こえてきた。


 その音で周囲を確認していた線視を前に戻すと目の前には人とは思えないほどに美しい女性がいた。


 名前も知らない女性は銀色のゆったりとウェーブのかかった髪を長く伸ばし、貴族を彷彿とさせるような白の女性服を身にまとっている。


 あまりにもの容貌の美しさにそこだけ暗闇が晴れているような感覚に襲われ、思わず警戒も忘れ見蕩れてしまう和樹に女性は口を開く。


 「私は女神、フォルトゥーナ です。いきなりですがあなたに残念なお知らせがあります。橋本和樹さん、あなたは先ほど亡くなられました。」


 そう言われ和樹はつい数時間前までのことを思い出すのだった。








 地元の高校に通う17歳の高校2年生の橋本和樹はルックス,学業成績,運動能力どれをとっても平凡の域を出ないようなどこにでもいるような人間だ。


 勿論のことながら坂の上で出会った美少女のベレー帽を拾い運命的な出会いを果たしたり親の再婚の関係で元カノと暮らすようになったり美少女の幼馴染がいたり、なんていうようなこともない。当然何かしらの不運なトラブルに巻き込まれるようなこともない。そんな普通さを体現したかのような暮らしを送っている。いや、送っていたという方が適切なのだろうが少なくともあの日に家に着くまではそうだった。


 その日もいつも通りに授業を受け友達と談笑するといった平凡の一言に尽きる1日を過ごしていた。


 和樹は部活をしている訳でもないため特段やることもなかった。必要もないのに学校にいるならば帰ってしまおうと学校を出て家路に着き帰宅する。玄関のドアの前まで来て眉を顰める。そこには朝には無かったはずの張り紙貼り付けてあったのだ。


 「ん?なんだこれ…」


 不思議に思い、近づき読んでみるとそれは両親から宛てられた和樹へのメッセージだった。





 和樹へ


 ギャンブルで大きな借金を背負ってしまいこの家は差し押さえられてしまいました。


 なのでここにはもう住めません。ああ、もうどうしようもねえよ。(笑)


 なので世逃げします。さようなら。


 追伸


 頑張って生きて!


                                父・母より






 張り紙にはそれだけが書いてあった。


 「は?いやいやいやいやいやいやいや、待てよ。なんだよ借金って。今日の朝なんて普通だったじゃん。そんな素振りなんて一切見せなかったじゃん。そんなになるまでギャンブルやるかよ、普通。少しは考えろよ。


 それに(笑)って笑い事じゃねえだろ。さようならって子供置いて逃げるのかよ。仮にも親だろ。一体これからどうしろと?あんたらには血も涙もないのか。


 しかも追伸で頑張って生きて!って。それをついでに書くことなの?少しは心配をしたらどうなんだ。はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?」


 手紙を読んだ和樹の率直な感想はこんな感じである。


 「せめて生活できるように整えていけよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。」


 怒りとショックの声と共にそう叫び、あまりにもの衝撃から呆然となりその場に崩れ落ち数時間後。


 とりあえず今日をなんとか凌がなくてはと働かない頭と力の入らない体を何とか動かし暗くなりつつある街を這いずり回り始めた。


 どれくらい歩いただろうか、時間の感覚は掴めないが手足がズキズキと痛みが走っているからかなりの距離を歩いたことは確実だ。皮肉にもその痛みで少し冷静さを取り戻しハタと気づく。


 「時間は遅いだろうけど説明すれば友達の家に居させて貰えるんじゃ…?」


 そうと決まれば早速行動を起こそうと最初の目的地に向かい始めた。だが急に曲がり角からトラックが現れる。


 突然なことに意識が追い付かず呆然としそのままなすすべもなく正面衝突。


「俺の人生はこんなものか…」


 遠くなっていく意識の中それだけ思うと意識を失った。






 


 そして現在。


 フォルトゥーナと名乗る女性の声だけが聞こえてくる。


 「あなたは亡くなりました。ですが私の力で何とか魂だけを繋ぎ留めているのです。」


 魂だけの存在…科学的ではいがこの訳わからない状態には一応の説明がつかないでもないのか?けどなんでそんなことを。と考えていると


 「あなたには異世界でやって欲しいことがありこうしています。やって欲しいこととはズバリ《魔王討伐》です。そのために異世界へと転生をして頂きます。それに当たりあなたにはスキル『ルーレット』を授けましょう。」


 和樹が欲しかった説明と共にそれだけ言うとフォルトゥーナは和樹に向かって手をかざす。


 「いや、訳分かんないから。やるなんて言ってないから。」


 しかも間接的に両親絡みで死んだ相手にそのスキルは何の嫌がらせなんだ。と思いつつ言ってるとフォルトゥーナの手からは淡い光が溢れ出し俺の体にまとわりつく。しばらくすると急速に輝きを失い元の状態に戻る。


 その瞬間、頭の中には『ルーレット』とかいうスキルの詳細が浮かんできた。


 能力の詳細は以下のようなもの。


 ・当スキル保持者の目が覚めた際に発動する。

 ・発動するとルーレットが現れ当スキル保持者が使えるスキルが決められる。

 ・使えるスキルはランダムで決められ選択等は出来ない。

 ・決まった瞬間にそのスキル詳細が分かる。


 困惑が抜けきらないままその日に使えるスキルを決めるためのスキルというあまりにも微妙なスキルに眉を顰めていると、目の前に長方形の電子版のようなもの現れた。


 どうやら今回だけ転生前に発動するようだ。何の前触れもなくドゥルルルルルルルルルルと音がし和樹に見えている面に高速で様々な文字が表示されては切り替わっていく。


 音が止みそこに表示されるは『幸運上昇』。


 名称からイメージできるが効果は以下の通り。


 ・自身の運気が上昇する。


 ただそれだけの非常にシンプルなもの。


 運悪く死に偶々女神に魂を繋ぎ留められ、運でその日が決まってしまうスキルを与えられ、最初に使えるスキルが幸運上昇とはとんだ運任せもあったものだ。


 「大丈夫か、俺…」

 「では異世界へいってらっしゃいませ。」


 心配になる和樹にフォルトゥーナがそう言うと足元には複雑な模様が浮かび上がる。その模様は輝きを増していき和樹の目の前は真っ白になり…


 気が付くと和樹は砂漠のど真ん中にいた。周りに砂以外では岩位しか見当たらない。


 「ここが異世界…?」


 思い描いたものとの違いに拍子抜けする。


 「それにしても送り先が砂漠のど真ん中とは親切心のかけらもない。なんなんだ一体…」


 不満を言うがそうしていても仕方がない。だから、思ってた感じとは違うものだがせっかくの異世界だ、少しは楽しもうか。そう思うことにした。


 「そういやあの女神は魔王がどうとか言ってたな…」


 そんなことを考えていると


 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ、止まってーーーーーー」


 ただ青い空があっただけはずの上空から少女のものらしき声がした。気になり見上げようとするが確認する前に何かが勢いよく和樹の脳天に衝突した。


 それと同時に


「何なのほんと…運気上昇はどこ行った。」


 それだけ言うと再び意識を失うのだった。

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