第7話 指針と同居

 「あれが私の家でございまし。」


 はずれの方に向かってしばらく歩いていくと見えてきた白塗りの壁に庭付の大きめな建物を指して言う。


 「わ~、大きいお家ですね~。」

 「そうだな。もしかして結構金持ちだったりするのか?」


 和樹は、食事を摂ることにすら苦労している人がいる中でこれだけの家を持てるのはかなりある方なんだろうなと思いつつ聞いてみる。


 「ええ、まぁそれなりには。女神の声を聞けるのは天使族唯一ですのでそれを利用して少々…」


 それはもう中々に稼いでいそうな返答だった。だって女神の声を聞くなんてここにいるヘイムの専売特許なわけでやり方さえ上手くできればそれはまあ儲かることだろう。救いを求めるためにいくらでもつぎ込む人もいるだろうし。


 「そんなことよりも入っちゃいましょうよ~」


 お金よりも大きな家の中に興味を惹かれるフレミーは待ちきれない様子だ。それに従い和樹も家の中に入っていく。


 「自分の家だと思ってくつろいで下さいまし。」


 そう言われ通された部屋は西洋風の作りになっていて和樹としても馴染みのあるものだった。


 「良い場所だな。なんか落ち着くよ。」

 「それは良かったでございまし。住む場所に困っていたようなのでこのまま住んで下さいまし。」


 お忘れかもしれないがヘイムが声をかけてきたのは宿代がなくなり慌てていた時なのだ。その時ことを不憫に思い提案してきたのだろう。


 「そんなことして貰って良いのか…?」

 「ええ、構いません。私の話を聞いて頂ければこうする理由に納得できるかと。」

 

 どうやら全てこれから話すヘイムと女神の関りに関係があるようだ。そこに


 「それは良かったですね~」


 と話が聞こえていたのかそう言いながら一通り家の中を見回り戻ってきたフレミーが合流しヘイムの話が始まった。


 「まずは魔王のことから話させて頂きまし。」


 そう言いヘイムがスキルで女神から聞いたという魔王の説明が先にされた。




 魔王とは元々この世界にはいなかった存在だ。ではどこから来たのか、その答えは女神が生み出したものだ。女神とは言っても和樹が会ったフォルトゥーナではなくもう一柱のカーリーがその犯人なのだ。カーリーとはフォルトゥーナと対立している邪神のことで、元はこの二柱が和樹たちが今いる世界の創造主なのだとか。その目的は不明だが邪神が作り出した化け物が魔王と呼ばれる存在なのだそう。女神についてはヘイムも詳しくは知らないそうだが、カーリーを含めてこの2柱しか存在しないとのこと。他に分かっていることと言えばカーリーが魔王を生み出し暴走しているからフォルトゥーナが止めに入ってるということだけだ。





 「そういうことだったのか…。それで俺が転生させられたと。」

 「ええ、ですがそれに当たり女神は力を大きく失ってしまいました。ですので他に転生されてくる人を待つことは期待出来ません。我々だけで何とかしなければならないのでございまし。」

 「そうなのか。じゃあ俺達だけで頑張らないとなんだな。」

 「頑張るとは何か当てがあるのでございまし?」

 「うぐっ…」


 最もなことを突かれどもってしまう和樹。


 「じゃあじゃあ、誰かチームに入ってくれるような見方を見つけるとかです?」


 そこに今まさにヘイムが提案しようとしたことを言うフレミー。だが知り合いはここにいる他にいない2人は当てがなく頭を抱えていると


 「そこは私が女神より提案をされているのでございまし。」

 「女神はそんなことまでしてくれるんですね~」

 「それで、それはどういうものだったんだ?」


 そう口々にするフレミーと和樹。

 

 「私が伝えられたのはフレミーのように壊滅させられてもまだ自分の里に籠っている者達をチームに引き入れるというものです。」

 「確かにその手はあるんですが魔王の襲撃で住む場所を移したのではないです?そうなると探しても見つかるかどうか…。私の場合は修行のためにエルフ族に伝わる森に戻ったのですが、皆が皆私のようにしてるとは思えませんし…」

 「そこは抜かりなく。女神さまが居場所を調べて教えてくださいまし。ですので判明しているのでございまし。」

 「それなら、現状はその人達に会いに行くのが良さそうだな。」

 「そうですね~」


 そこまで分かっているのならそうするのが良いだろうとヘイムの提案に和樹が賛成するとフレミーもそこに同調する。


 「では異論はないようですね?でしたら女神さまが残りの力で探した者達の居場所をお伝えいたしまし。」


 そう言い和樹たちのチーム候補の種族と居場所を挙げ始めた。




 まずは1種族目、人狼。2歳の時に魔王軍に村を襲われたが両親が彼らと共に生きていた狼の群れに子供を託し逃がしたことで生き残った唯一の個体。現在は霧が立ち込める森の中で狼達と共に身を隠している。


 2種族目は九尾。多数の犠牲を出し最も強かった3人が逃げ延びた種族。今はばらばらに放浪の旅をしていてどれほどが生きているのかさえ不明だ。だが1人だけ一番高い山で山籠もりをしていることが判明。


 3種族目が鬼。彼らは魔王軍と交戦するも何とか返り討ちにし数人が生き残った。その後簡単には手を出されない火山地帯に移動するも食糧不足になり生き残った鬼同士での抗争が起こった。今はその生き残りの1人だけとなっている、力があり狂暴な種族。




 「女神に伝えられたのはこの3種族でございまし。和樹様を転生するのに力を使い果たしてしまい最後にこれを調べて私に伝えるのでギリギリだったそうで…。他の種族のことは判明しなかったのでございまし。力の使い過ぎで一瞬だけ気が緩んでしまい、和樹様を砂漠に転生させてしまい申し訳なかったと女神が言ってございまし。」


 転生先が砂漠だった理由がいきなり明かされ驚く和樹は


 「性格悪い女神なのかと思ったけどそうじゃなかったんだな。てっきり嫌がらせか何かかと…」


 とそれまで抱いていた女神への印象を口にしてしまう。


 「人にものを頼むのに普通は嫌がらせなんてしないですよ~」

 「そうでございまし。」


 女神の性格の悪さを疑っていた和樹に苦笑して言う2人。


 「それはもう良いとして、じゃあこれからその人達を探しに行くんです?」

 「ええ。ですが、直ぐにという訳ではないのでございまし。彼らが住んでる場所に辿り着くまでに危険な場所を通るので和樹様の強化をしたいと思いまし。」


 先を急ごうとするフレミーに堅実的な提案をするヘイム。それに対してフレミーのほうきではダメなのかと和樹が聞くと


 「あれは二人乗りなので…。しかもエルフの森の特別な木が素材なのでエルフ族にしか伝わらない珍しいものなんです。その上魔王軍と戦った時にこれ以外はなくなっちゃったんですよね…。ですのでこれ以上調達できないですしヘイムさんの提案が良さそうですね~。」


 ということだった。ヘイムもほうきのことは知らないもののようで相当に珍しがっていた。フレミーが持っていたほうきを一通り見終わると


 「では、明日からギルドで情報収集をしながら和樹さんを鍛えていきたいと思いまし。長くなりましたがそういう訳でこれから共に行動して頂くのでお二人はこの家の空き部屋で休んで下さいまし。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る