第8話 特訓開始
ヘイムの話を聞いてから一夜が明けた朝。
和樹は割り当てられた自室で寝起きの体で両手を上に組みグーっと伸びをする。こうするだけで朝のすっきり具合が全然違うのだ。
一度起きると眠さが消し飛んでしまう程の寝起きの良さを持つ和樹は直ぐにベッドと机が置かれただけの6畳程度の部屋を出、説明を受けたリビングへと向かい階段を下りていく。そこでは意外と朝に強いフレミーが朝食を作っていた。彼女は起きてきた和樹を見て声をかける。
「あっ、おはようございます!和樹さん。丁度朝ご飯が出来た所です。準備するのでヘイムさんを起こしてきてもらえませんか?」
「おはよう。あいつまだ起きてなかったのか…。仕方ない、起こしてくるよ。」
言われた通りにリビングの上階にあるヘイムの寝室へと足を運びドアをノックする。だがヘイムの返事は一向になくしんと静まり返っている。フレミーとは対照的に朝が弱いらしいヘイムを意外に思いつつドアを開け中に入り、和樹は驚く声を上げる。
「朝食が出来るみたいだぞ。早く起き…おわっ」
そこではなんとヘイムはあられもない姿で寝ているのだった。一応腹の上にブランケットはかかっているのだが服装がマズイ。なんと下着を身に付けただけで寝ていたのだった。上下共に黒地に白の装飾の入ったものを身に付け気持ちよさそうに寝ている彼女を見て数秒間その姿へと和樹の視線は釘付けになる。
「し、失礼しましたっ。」
ふと我に返りそう叫びドアを勢いよく閉め部屋を出る。きっちりした印象のヘイムのだらしない一面に呆然としそのまま廊下で立ち尽くす。
「あ、あんな格好で…。しかも服も脱ぎ捨てられてたしああ見えてヘイムってがさつなのか…?」
今見た状況を整理し、次からは気を付けようと心を決める和樹の耳にがさがさと音が入ってきた。どうやら和樹が起こした物音でヘイムは目を覚ましたようだ。しばらく衣擦れが止みガチャリとヘイムの寝室のドアが開き眠そうな声がする。
「和樹様…。み、見ましたか?」
「意外とだらしなかったんだな…」
ここは気を使って見てないと答えるべきなのだろうがそんな余裕はなく思ったことを素直に言ってしまう。
「っっっ、もう忘れてくださいましっ。」
顔を真っ赤にしてそう吐き捨てるヘイムに和樹はどうすれば良いのかも分からずただあたふたとするだけだった。
そんな一幕があり、現在。二度寝に戻ろうとしたヘイムをなんとかリビングまで引っ張り出し、フレミーが作った朝食を食べ終え和樹の強化についてどうするか話し合っている最中だ。今は和樹のスキルについてヘイムに話し終えたところだ。
「目覚めてスキルが切り替わるというのなら当たりを引くまで何回も寝れば良いのでは?」
いまだに寝惚け眼のヘイムは和樹のスキルを聞いてそんなことを言う。
「そんなこと出来るのは誰かみたいにだらしないやつだけだ。俺は一回起きると夜まで寝れないタイプなんだよ。」
「今朝のことは忘れてくださいましっ。」
ヘイムの姿を思い浮かべながら言う和樹に再び顔を赤らめて声を張るヘイム。忘れろと言われてもあの衝撃的な光景はそう簡単に忘れられるものではない。
「ならどうするんです?毎回違うスキルが出るなら私がしたみたいに使い慣らして威力を上げるなんてことも出来ないですよね~」
ヘイムのことは話でしか知らないフレミーは二人のことを尻目に和樹の特訓の話を進める。早く忘れたいヘイムはそれに続いて言う。
「いえ、フレミー、それは微妙に間違っていまし。」
「どういうことです?」
フレミーは何が違うのかと首を傾げる。
「知らない人は多いと思いましが、練度で変わるのは威力ではなく燃費なのでし。つまりは同じ体力の消費で出せる威力に違いがあるということでしね。なので死ぬレベルで体力を消費させれば練度が低くても高威力は出せまし。」
「そうなんですね~」
初めて聞くことに感心するフレミーと和樹。
「けど、それは俺のスキルには関係ないんじゃないか?」
「いえ、和樹のスキルにはちょっとした考察がありましが、それを話すのはもう少し様子を見てからに致しまし。それを考えつつ、とりあえずは経験を積んで体力をつけて貰いたいと思いまし。」
「その考察を聞きたいんだが。」
和樹は自分のスキルの話を先延ばしにされ若干不満げになる。
「せめてあと1回くらい観察出来ればほぼ確信出来そうなのでそれまでは……余計なことを言って違ってたら嫌なので。」
「そうか、分かったよ。じゃあ、当面はこの二つでやっていくのか?」
「そうでございまし。」
そうういう訳で和樹の特訓が始まっていくのだった。
早速今日から始めていこうということになり和樹達3人はギルドにいる。そこは簡易的なテーブルと椅子が置いてあり大衆食堂のような印象を受ける場所だ。奥に進んでいくとカウンターとギルドに所属した人に向けた依頼が書かれた紙が貼ってあるボードが設置されている。
「依頼をこなすにはギルドに所属することが必要なので早速登録をしに行きましょう。こうしないと魔王討伐のための情報も得られませんので。」
ヘイムにそう言われ受付嬢がいるカウンターに辿り着く。
「はぁ~い。あれ?ヘイムさんじゃないですか。やっとギルドに登録する気になりましたか?」
営業用の声だろうかやや高めの声で金髪を団子に結びヘイムもかくやというようなプロポーションを持った受付嬢がヘイムに声をかける。
「ええ、そうでございまし。このお二人と一緒に。和樹、フレミー、こちらはギルドの受付嬢のアイリーンでございまし。昨日話した私の収入源の方を少々手伝って頂いてる方でございまし。」
朝食の場で世話になるんだしと様付けを断られたヘイムは和樹を呼び捨てにし受付嬢を紹介する。聞くと長くなりそうだと思い和樹はあえて何も収入の話題には触れないことにしてフレミーと挨拶だけをすることにした。
「私、フレミーです。和樹さんとヘイムさんとでチームを組んでます。よろしくです~。」
「橋本和樹です。魔王討伐をしようということでギルドに入りたくて…」
「フレミーさんと和樹さんですね!紹介に与りました、受付嬢のアイリーンです。以後お見知りおきを。それにしてもあの働きたくないヘイムさんが登録をねぇ。一体何をしたんですか?」
「私たちは何も…。女神に言われたらしくて。」
「なるほどね。女神に、か…。それで魔王討伐を…。これは期待できるかもしれないですね!エルフ族に天使族、そして人間のチーム、どうなることやら。」
「それにしてもヘイム、働きたくないって…。朝のことといいやっぱ」
「そのことはもう忘れてくださいましっ。」
和樹はこれから修行を始めるというに妙な期待を持たれたことが恥ずかしくなりヘイムの話題で誤魔化す。それ以上は触れて欲しくないヘイムは話を途中で区切るようにピシャリと言う。そんな様子に笑いが起きながらも3人は登録を進めていった。
「はい、これで登録は完了です。これで依頼も受られ魔王軍の情報の共有が出来るようになります。では、こちらの端末をお渡しします。これは情報の共有だけではなく、ギルドからの依頼が入ることがあることも頭に入れておいて下さいね。」
名前と種族,スキルを記入し肩を見せ魔王軍に所属していないことを証明するだけの簡単な登録が済むと四角い端末が渡され言われる。こうすることで魔王軍にこちらの情報が漏れないように対策してるのだとか。
「初の依頼はこれにしましょう!」
端末の操作を教えられた後、ボードから和樹の特訓に向いている依頼を持ってくるとアイリーンに渡し、遂に魔王討伐への準備を本格的に始めていくのだった。
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