第11話 覚悟のリベンジマッチ

 和やかな雰囲気にも一段落が着き和樹達は当面の問題に取り掛かる。


 こうなった以上は怖いという理由で迷惑をかけていられないことになる。それにはどうしたものかと思案する。


 「戦えないことはどうするのでございまし?覚悟を決めたのは良いにしても抵抗は消えないと思いまし。」

 「それは、俺の気持ちの問題だからな…」


 ヘイムの言う通り覚悟を決めたことで多少はましになったかもしれないが抵抗があることでどこまで戦えるのかが分からないのが実情だ。このまま戻っても良いのだがさっきのような事態が起こらないように出来るだけ問題は処理をしておきたいというのが総意だ。


 そこで和樹はヘイムの声でふと思い出し尋ねる。


 「なぁ、ヘイム。確か湿地帯に入る前に魔物の肉は食料になるとか言ってたよな?」

 「ええ、確かにそう言いましたが…」

 「普通のお肉よりも肉質が良くて美味しいんですよね~」


 ちょっとずれた反応もあったが和樹はそれならばと思う。


 魔物を討伐することはいわゆる生産者のようなものなのではないか、と。それならば元の世界にもあった文化だ。そう考えれば生き物を殺す知らない文化にではなく食料を生産するための致し方ない行為になる。


 詭弁にも感じるが要は和樹の内心的なものが問題のため認識が変わるだけで全然違うのだ。


 異世界に来たから殺しを働かなくてはいけないではなく元の世界でも誰かがやってたことを和樹が異世界でやるだけ。そう考えれば犯罪になるという心理的ハードルもなくなり手が出しやすくなる。


 こうして慣らしていく外ない。


 「こう考えれば少しは大丈夫かもしれない。」


 和樹は考えたことをフレミーとヘイムに話す。


 「それに、私達もいますしね!」

 「その通りでございまし。和樹が気にすることは無いのでございまし。」


 和樹に優しい言葉がかけられる。和樹は何とも良い仲間を持ったことか。


 それがじんわりと和樹の心の中に染みていき涙が浮かびそうになるのを堪える。


 「よし、もう迷わない。」


 涙をごまかすために呟かれたはずのそれは確かな重みを持って響き、和樹の表情を変える。


 「では、もう一度依頼を始めていきまし。」


 迷いは断ち切ったことを悟ったヘイムに続いて2つの声が発せられる。


 「ああ、行こうか。」

 「リベンジマッチといきましょう!」


 一行は再び湿地帯の中へと足を踏み入れていった。




 湿地帯の中は最初に入った時と同様にシンと静まり返っている。聞こえてくるのはピチャピチャという水で湿った土を踏みしめる音だけ。


 1度目の失敗もあり真剣な面持ちで歩みを進めていくと地面が荒れ果て木が倒壊したりと破壊痕が目立つ場所に辿り着く。それは先ほどの戦闘でフレミーとヘイムが作ったものだ。


 「見当たりませんね…」

 「攻撃した私達を探していると思いまし。」


 そう声を上げるのはフレミーとヘイムで2人の言うようにハングリードッグの姿は跡形もない。ヘイムの弾幕のおかげでまくことに成功した成果だが同じ場所に留まることは無かったようだ。


 「で、どうすんだ?探し回るのか?」


 見当たらないなら探す外ないだろうと考えた和樹。


 「探すのは手間がかかるので誘き寄せた方が手っ取り早いと思いますよ。」

 「私もそう思いまし。」

 「誘き寄せるって言ったってどうすんだ?何かそういう道具があったりするのか?」

 「そんなものはないですよ~。」

 「だからこう致しまし。」


 何が何やらと首を傾げる和樹の隣でヘイムは右手を前に突き出し構える。するとその周囲に黄色と白に輝く野球ボールサイズの球が3つ浮かび上がってくる。


 「それはさっきも使ってた…?」


 和樹が気づいた通りこれは最初に戦った時にも使っていた光弾だ。


 光弾とは光を圧縮したエネルギーの塊で着弾と同時に爆発する天使族の持つスキル『使徒』の効果の内の一つだ。


 そしてそれらを正三角形の頂点方向へと放つ。


 着弾し轟音をたて爆発した光弾は地面をえぐり破片が木に目に見えて分かる傷を与える。


 「!?急に何を…」

 「ハングリードッグが私達を探しているのならこうして物音を立てれば向かってくるはずでございまし。」

 「いつ来ても良いように構えてて下さい。」


 ヘイムの説明に納得した和樹はフレミーの言う通りにスキル『小刃Ⅱ』を発動し構える。同時に倦怠感を感じつつも3人で背中合わせにして立つ。どの方向から来ても即座に対処できる構えだ。


 そんな緊張も張り詰めた状態で長く感じた数分が過ぎていく。


 そして遂にその時がきた。


 何の前触れもなく和樹の視線の先にあった茂みの方からグァルルと唸り声を上げ正面から飛び掛かってきた。


 和樹は突然なことに及び腰になるが手元に出していた刃を操作し攻撃を受ける。直後牙と刃が衝突し甲高い音を立てるが受けきることに成功する。


 第2第3の刃を叩きこもうとするが飛びつき宙に浮いた状態の標的に反動をつけ回避される。着地と同時に残りの9体もぞろぞろと出てきて身を屈ませ攻撃態勢に入る。


 「ナイスです。」

 「その調子でございまし。」


 だがフレミーとヘイムの2人は和樹に集中攻撃はさせまいとそれぞれのスキルを発動し9体を牽制する。


 「和樹さんは引き続き1体に集中して下さいまし。」

 「ヤバそうだったら言って下さいね。」

 「了解だ。」


 和樹は言われた通り1体にだけ意識を向ける。相手も和樹しか目に入っていないようでフレミーとヘイムの2人には気にも留めていない。筋肉質で黒くドーベルマンに似た形をしている個体は和樹に見覚えがあった。もしかすると最初に和樹が攻撃した個体なのかもしれないがそんなことは今は関係のないことだ。


 また相手は間髪入れず攻撃を入れようと飛びついてくる。だが最初とは違いしっかりと立てている和樹は横に飛び避ける。


 体勢を立て直し振り返るとその体は涎を撒き散らしすぐ目の前まで迫っていた。


 「グッッ」


 息を漏らし咄嗟に初撃と同様にスキルでカバーする。


 だが攻撃を受けた小刃にひびが入る。そして音を響かせながら噛み砕かれてしまった。


 次は和樹の番だと飛びかかろうとしてくる姿に和樹は自分の腕を噛み千切られる光景を幻視する。そんな幻覚に嫌な汗が背中をびっしょりと濡らし、引き延ばされた感覚の中躊躇う余裕もなくスキルを操る。


 迸る生暖かい液体が和樹の顔に付着し拭う。何なのかと見てみると手が赤黒く染まっていて理解した。


 それに体が跳ね、直ぐに目線を前に戻すとそこには首から刃を生やして血が流れ身悶え苦しむハングリードッグの姿があった。


 「はあああぁぁぁぁぁぁ」


 あまり良いとは言えない感覚に叫び声を上げ、せめて苦しみから解放してやろうと再び残りの2本の刃を向ける。


 それは風を切り鈍い音を立て胴体に刃が突き立つ。


 キュウゥゥンと衝撃に体をビクつかせそれだけ鳴くとバサリと地面に力なく横たえ絶命する姿があるのだった。

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