第13話 他人頼りの解明と前進
湿地帯を抜けると同時に途切れてしまった和樹の意識が浮上し始める。
少しずつ感覚もはっきりしてきて、後頭部にやけにムニムニと弾力のあり、もちもちと頭を包み込むようなフィット感のある枕があることに気付いた。体験したことのないあまりにもの気持ちの良さについついその枕に頭を押し付けてしまう。
「んっ」
そうしていると何故か聞いたことあるような女の人の声が耳に届く。
聞いたことあるというか、フレミーの声に似ている。
和樹はあることに気付く。さっきまで外にいたはずではないのか、と。それでこれほどの弾力ある枕が後頭部にあるのはどう考えてもおかしい。
そこに気付いた和樹は一気に覚醒し目を開ける。
そんな和樹の目には素晴らしく悩ましいものではあるが、多少の残念さのある光景が目に飛び込んできた。
なんと、フレミーの顔を真下から大変見通しが良く拝めることが出来るのだ。そこのどこが多少残念さのある光景なのかはお察しの通りで、指摘のする必要もないだろう。
そんな光景から自分がどんな状況に置かれているのかを直ぐに察知する。自分はフレミーに外で膝枕をされているのだろう、と。それも、近くにヘイムもいながら。
それは何という羞恥プレイなのだろうか。和樹としても恥ずかしいことこの上ない。
だが、それでもこの感触を楽しみたいという欲望を捨てきることが出来ず、和樹のスキル『ルーレット』の影響で周囲が止まっているのを良いことに思う存分楽しむ。バレたらまずいが、バレなければ良いのだ、バレなければ。
そうしているうちにもいつの間にか和樹が使えるスキルの抽選も終わり、『美顔効果Ⅰ』とスキル名が表示される。効果の詳細は以下の通り。
・幸せを感じると顔の肌の潤いが増す
・顔の肌をこねるとハリが増す
「何なんだよ、このスキル。」
それは、需要がある人には大変喜ばしいスキルなのかもしれない。だが、男、特に肌のケアなどには全く興味の欠片もない和樹にとっては全く持って必要のないスキルだった。
変なスキルに悪態をついていると副作用として発生する硬直が取れ、動き出す。
「さっきからもぞもぞって動いて、起きたんですか?かず、き、さ……いやぁぁぁぁぁ」
「うげっ」
フレミーは未だ膝枕の状態にある和樹を見るや否や叫び声を上げ、和樹を足の上から押し飛ばす。和樹は急なことに思わず呻き声を漏らす。
「フレミー!どうしまし……うわっ」
「いや、ヘイムまでどうしたんだよ……」
フレミーの叫び声を聞きつけ駆け寄ってきたヘイムまでも和樹の顔を見ると顔を引き攣らせる。
「か、顔が……」
「自分で分からないので……?一体それは……?まさか変なスキルでも引き当てたのでございまし?」
和樹はどうやら顔に異変があるということに気付き、自分の顔を触ってみる。
べちょっ
和樹の手には嫌な音を立てて液体が纏わり付く。
「うわっ気持ち悪っ。これが「美顔効果Ⅰ」の効果なのか?何処も美顔になってないと思うんだけど……」
「美顔、でございまし?」
「ああ。潤いとハリを増すんだとか……」
「そんなものが……」
それにしてもべたつくのは妙だと、スキルの内容を思い浮かべ何なのか考える。
そして『幸せを感じると顔の肌の潤いが増す』という項目に行きつく。
和樹は押し飛ばされる前まで誰に何をされていたのか?答えはフレミーに膝枕を、だ。
その結果、絶頂を超えてしまった幸せが和樹を襲い潤いを超えるレベルの液体を顔から放出してしまったということだろう。それも、放出しすぎてべたつくレベルで。
いや、もうこんな話はいいとして。
『ルーレット』で決まる能力がランダムであることを見せるために入れたシーンが迷走しかけてきてしまった。このまま続けるとへんな方向に向かってしまいそうだ。あ、能力はランダムで決まりますよ!(1話参照)
仕切り直すようにヘイムがバッグから取り出したタオルで顔を拭き、べたつきを落とす。
「それで、和樹。体力はもう戻ったのでございまし?」
「そう言えば、あの時のダルさはもうないな。」
立ち上がって軽く体を動かし、状態を確認する。
「うん、大分動けるみたいだ。」
十分に休憩を取りハングリードッグで消耗した体力も戻ったようだ。足を動かしたりしても重さは全くない。
流石にケガが直ったということはなく、傷は残ったままで痛みは引かないが気になる程でもない。
「それは良かったです~」
「随分と遅い復活でございまし。もう辺りは暗くなってきていまし。」
「そこは多めに見てくれ。」
和樹は、何せ初めて魔物と戦ったんだ、仕方ないだろう?という目で2人を見る。
「これからに期待してますよ?」
「今回成功したからと言って調子に乗らないことでございまし。」
フレミーとヘイムはやれやれといった様子で苦笑いしたり、首を振ったりしている。
「全く、手厳しい。」
「これから魔王軍と戦って行こうというのに甘やかす訳がないのでございまし。それで、実際に今日戦って感じたことは何かございまし?」
なんだかんだ言いながら和樹の修行には付き合うつもりのあるヘイムはハングリードッグとの戦闘の総括に入るようだ。
「うーん、そうだな……やっぱ威力が足りないな。こればかりは運次第だからどうにもなんないんだろうけど。」
「いえ、それはある程度では対処可能だと思いまし。」
「え、そうなのか!?」
「ええ。前例のないスキルなだけに理論上ではという話ではございましが。これが朝に話した考察でございまし。」
ヘイムは淡々と告げている。当然でしょ?といった様子だ。
「燃費の話は覚えていまし?」
「ああ。練度が高い方が体力の消費が少なく高威力を出せるって話だろ?」
「ええ。で、それが和樹のスキルにも当てはまるのだと思いまし。」
「というと?」
ランダムで能力が決まるスキルにどう関係があるのかと首を傾げる。
「今まで使えた能力の練度を思い出してみて下さいまし。偏り過ぎだと思いませんか?」
そう言われこれまで使った能力を思い浮かべる。
『炎弾Ⅰ』『小刃Ⅱ』『美顔効果Ⅰ』出てきてはいないがヘイムと会った日も練度の低いものだった。
「確かに全部ⅠかⅡで寄ってるな。それが燃費にどう関わるんだ?」
「つまり、和樹の体力の限界がその程度もしくはスキルを使う経験がないからⅠかⅡしか出てこないのではないのでは?ランダムとは言いつつも練度まではどうにもならないのではないかと思いまし。」
和樹は盲点な考え方に意表を突かれた。しかも、それはヘイムの話すスキルの法則に当てはまってそうで納得してしまえるものだった。
「確かにそうかもな。」
「言われてみればそうですね~。ヘイムさん、よく気付けましたね。」
「普通とは変わらないスキルとして捉えれば分かりますよ。まぁ、偶々だと言われればそれまでですが、それだとランダムには見えないでございまし。今のスキルを聞いてやっとこの考察に自信をもてたという感じでしが……如何せん情報が少なすぎまし。もう少しどういうスキルが出たかとかがあれば確信出来ましがね。」
ヘイムはさも当然とでもいうようにサラッと言いのける。
「スキルを何度も使い慣らして練度を上げて、体力を増加させて戦える時間を長くするのが基本でございまし。和樹のスキルも例には漏れなさそうなのでこれからも継続して経験を積んで体力を伸ばしていきたいと思いまし。」
「ああ。了解だ。」
「私もそれが良いと思います!」
こうして和樹のスキル『ルーレット』の謎が1つ解明され、主にヘイムのおかげで前進したのだった。
「夜も遅くなってきましたし今日はここで野営にしませんか?これから移動するのは嫌です~」
「俺も体力がある程度は戻ったとはいえ若干疲労があるからその方が良いな。」
「では、そう致しまし。フレミー、外壁の生成とハングリードッグの肉を焼いて下さいまし。」
「はいです~」
フレミーは地面に手を着きテント代わりの囲いを作り、仕留めたハングリードッグの肉をスキルを使い焼き始めた。
和樹はここでもやることがなく、自分の役立たなさに悲しみを覚えるのだった。
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