第14話 懐かしき故郷
和樹とフレミーの2人はフレミーの作った簡易的な野宿場所からヘイムを置いて抜け出し、湿地帯の手前にある草原をゆったりと歩いていた。
どうしてそんなことをしているのか?説明しよう。
それはフレミーの作った囲いの中で1晩を過ごした今朝のことだった。
「うぐぅぅー」
「おはよう、フレミー。」
和樹は、目を覚ますと大きく伸びをするフレミーに朝の挨拶をする。
「おはようございます。随分と早いですね、和樹さん。まだ日が上がったばかりなのに。」
「ちょっと、寝れなくてな。」
「そうですか。そういえば昨日はお疲れで途中で寝ちゃってましたもんね。」
「まぁ、そんなところだ。」
実は美少女2人に密閉された空間で囲まれ、全く寝れる気配がなかっただけなのだが。あえて訂正までしてそれを言う必要もないだろう。なにせ、そんなことをすれば恥をかくのは目に見えているのだから。
「そういうフレミーこそ随分と早いじゃないか。」
「私は習慣なので。こんなの慣れっこですよ。」
「凄いな。」
褒められたフレミーは照れくさそうに頭を掻く。
「えへへ……そんな急に褒められると恥ずかしいですよぅ。えっと、せっかくですし少しお散歩しません?ヘイムさんはまだ寝てますし。」
2人の横には幸せそうな顔でぐっすりと眠りヘイムがいた。時折寝返りを打っては「私の力がどうしても必要?仕方ないでございまし。全く、和樹もフレミーも私がいないと何も出来ないのでございましね。」とやけに長い寝言を言っている。
「ヘイムがいないとって、どういう世界観なんだ?」
スキルを除けばポンコツが甚だしいヘイムがいなくてもなんとかなるだろうというのが正直な和樹の意見だ。
「まぁ、ヘイムさんのおかげで助かってることもあるじゃないですか。特に住居の問題に関しては。」
「スキルだけは有用で稼げるみたいだからな。女神の力が弱まってるとなった今ではこれまで通りとはいかないと思うがな。さてと、こんなところでしゃべってないで歩くか。」
「はい!」
話は冒頭に戻り、2人は特に声を上げるでもなくただ静かに草原の中を歩いていた。
「こうして歩いてると故郷を思い出します。」
和樹は、それまでの沈黙を唐突に破るフレミーに意識が追い付かず、一拍遅れて返答する。
「故郷って森だったんじゃないのか?」
和樹は砂漠で出会った日にそんな話を聞いていた。
「ええ、そうですよ。ですが森を抜けるとこうした草原が広がってたんですよ。なんかここと似てると思いません?」
フレミーは故郷のことを思い出しているのか、懐かしそうにしている。
「ですが、それは昔の話です。和樹さんに話したようにエルフ族は魔王軍に襲われて壊滅してしまったので……。その草原は魔物の住処と魔王軍に就いた亜人達の集落になってしまってます。」
「そうなのか……それで、どうして森には住めたんだ?中にそいつらが入ってきそうなものだけど。」
和樹はそれだけ聞けば当然とも言える疑問を抱く。
「はい。和樹さんの言う通り亜人達は森に入って来てましたよ。だが、それはエルフの生き残りがまだまだいた頃の話です。」
8年前、エルフ族は魔王軍に襲われた。
その当時は、魔王軍の規模もそんなに多い訳ではなく、今とは違って前線にも魔王本人が出てくるなんてことはざらにあった話で、エルフの村もそうだった。
「魔王が襲ってきたぞ。子供は何が何でも逃がすんだ。大人は戦え。クライカ、お前は何人か連れて子供たちの護衛をするんだ。」
「分かったわ。あなたも気を付けて、ブレイズ。」
村の村長であるフレミーの父、ブレイズが叫ぶと大人たちは雄叫びを上げスキルを発動し、魔王軍を迎え撃つ。フレミーの母、クライカはまだ若いが戦力に数えられる者を3人連れ、当時8歳のフレミーを含んだ子供達を森の奥へと逃がした。
「母様、父様たちは大丈夫なの?」
奥へと走っていく途中でフレミーは不安気に眉を顰める。
「大丈夫よ、フレミー。あなたの父様は村で一番強いんだから!だから、今は母様とみんなと一緒に逃げましょ。」
「はい、母様。」
そうして懸命に足を動かし森の奥まで逃げ込んだ。
だが、戦いに残った大人たちは粘りはしたが魔王相手では敵わず、数日後にはフレミーたちは魔王に追いつかれてしまっていた。
「我の配下に入るのだエルフ族よ。ならば殺さないと約束しようではないか。」
「誰が入るものですか。皆、子供たちを守るよ。」
「「「はい。クライカ様。」」」
クライカは地面に手を付き、スキルを発動させ背後に壁を作り出しこれ以上は進ませない意思を表示する。
「か、母様っ」
向こう側からフレミーの声が聞こえてくるがそんなものは無視して声を張り上げる。
「逃げなさい。ここは私たちが食い止めます。あなた達子供が残ればエルフの未来はまだ潰えません。」
フレミーはそんなのは嫌だと何とか残ろうとしていたようだが、周囲にいた子供たちに引っ張られていった。
「愚かな。お前たちも死を望むのか。望み通り一人づつ嬲り殺してやろうではないか。」
「ここで終わるのはお前の方だ。」
だが、そんな彼女らの抵抗は虚しく終わってしまう。
残りは弱い子供しかいないからと魔王は配下に残りの殲滅を命令した。
エルフ狩りに森の中に入って来ている配下を遠くにいるのを確認したら気づかれる前に逃げてと繰り返していた。
最初は全員まとまって行動していたが、一度だけ見つかってしまいバラバラの方向に逃げていった。
懸命に逃げるフレミーの背後で悲鳴が上がり、何人もの子供たちが捕まっては殺されてしまった。
そうはなるまいと幼馴染のクロイという女の子と2人で一緒に奥へ奥へとひた走った。
「良かった。何とか逃げ切れたみたいだね、クロ、イ……あれ……クロイ?」
追手が追って来ないことに気付き、安堵の笑みを浮かべ立ち止まり隣を見る。
だが、隣で一緒に逃げていたはずのクロイの姿がどこにも無かった。
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