第5話 街の中

 出発から2時間ほどが経ち


 「着きました~」


 ふ~と軽くため息をつき伸びをしながら言うフレミー。


 「ああ、そうだな。」


 一方和樹は落下しないだろうかという不安があるわ初めての空の旅だわでげっそりとしている。


 やっぱり頭に追突されたトラウマはきつすぎる。乗らなかったらそれはそれで距離がありすぎてそれだけで体力,食料共に危なかっただろうから文句も言えないけどな…


 和樹はそう思いながら永遠にも感じた空の旅を思い返す。


 その間あまりにもの恐怖で前で運転をするフレミーに恥ずかしげもなくしがみついていて、思い返すだけで死にたくなってしまう。


 ええい止めだ止め。もう忘れろ。そう思い直していると


 「和樹さ~ん、そんなところで何してるんです?早く行きましょーよ~。」

 「んっと、悪い悪い。何でもないよ。じゃあ行こうか。」


 フルクトルへの入り口にそびえ立つ7メートルはあろうかという巨大な門の前で振り返り、ぼんやりとしている和樹をを急かすように言うフレミーに和樹は慌てて返事をし後を追うように歩き始める。


 「旅のお方ですか?街の中に入るならば肩をお見せ下さい。」


 フレミーに追いつき門の前まで来た所で門番をしていた衛兵に声を投げ掛けられた。


 和樹はなんだろうと思っているとフレミーも何も知らないのか


 「そのようなものですけど…肩、ですか?どうしてです?」


 と訊いていた。


 それにしてもこいつ結構知らないことあるな…頼りにはなるんだが、盗賊の時もだけど街のこともそこまで詳しくないのか?ずっと森で修行してたって言ってたし仕方ない部分もあるか。街に入ったら魔王軍以外にも情報収集しないといけないな。などと思考を巡らせていると


 「魔王軍は肩に紋章があります。魔王への忠誠を誓うと闇の力を与えられると同時に付けられるのだとか。なのでお見せ下さい。まあ、最近はそこまで活発な動きは見えないので我々も見たことはないんですけどね。街に住んでる人達は基本外には出ないので魔王軍と戦ったことがないと知らないなんてこともざらにあるので…。知らなくても無理はないですよ。」


 と隣にいたもう1人の衛兵が苦笑を交えながら2人をフォローするように説明してくる。


 魔王軍かどうかにそんな見分け方があるのかと感心し、最近活発化している訳でもなくましてや知らない人が多いなんて世間知らずそうな所があるフレミーが知らないのも無理はないだろう。


 「なるほどです~。ではでは確認して下さい!」


 フレミーも衛兵の説明に納得したのかそう言い袖を捲り上げ白い肌をあらわにし、シミ1つも無い綺麗な肩を見せる。それはまるで上等なシルクのように滑らかで新雪が日光を反射するような輝きがありで見るからにすべすべで柔らかそうだ。


 「はい、確認しました。問題ありません。念のためあなたの方もよろしいでしょうか?」


 その美しさに目を奪われているとごくりと喉を鳴らし和樹同様目を奪われた様子の衛兵達も直ぐに気を引き締直し和樹に向かい肩を見せるよう促してくる。


 軽く頷き元居た世界から着ていた学生服の首元を緩め肩を見せるが勿論問題はなく街に入ることを許可された。


 この大きな門を開け街に入っていくのかと二人とも胸を弾ませ期待していたがそうはならなかった。門を開けてしまうとどうしても目立ってしまうため不要不急以外では開けないようにしているのだろう。衛兵は門に設えてある一般的な大きさの扉を開けここから入るように言い二人を見送り


 「では、ようこそフルクトルへ。この街をお楽しみ下さい。」


 にこやかにそれだけ言い残し扉が閉められた。


 

 門を潜り街の中に足を踏み入れるとそこは魔王軍が脅威にある世界とは思えないほどに賑わいを見せていた。


 見渡すと白を基調とした壁面にアクセントとして明るい色が入り、屋根は赤茶色の建物がずらりと並んでいた。そんな街並みを主婦らしき人が買い物をし、子供たちが走り回り、頭に動物の耳が付いてて見るからに亜人な人と人間が楽しそうに会話をしている光景があるだけだ。平和な世界そのものとしか言いようがない光景に想像とのあまりにもの違いに言葉を失う和樹とフレミー。


 「話には聞いてましたけどここまでのものとは…実際に訪れてみないと分からないものですね~。」

 「盗賊が居たのになんだこの平和さは。てっきり殺伐としてるのかと…魔王がいるってのが嘘に思えてくるな。」


 しばらくし少しずつ理性を取り戻してきた2人は感嘆の声を出し口々に言う。


 立ったまま止まっていると通行の邪魔になるからと足を動かしていると街全体の雰囲気が見えてきて


 「これは…ひどいな。」


 和樹は狭い路地に目をやりそう口にする。そこでは痩せ細りボロボロの服を着て、年齢も年もばらついた人々が座り込んでいた。明らかに食事はまともに摂れておらず物欲しそうにこちらをじーっと見ている。


 「あの人たちはここで生活を…?」

 「多分そうだろうな。外壁の囲いが土地を制限する上に見たとこ人口もそこそこ多そうだから仕事に溢れたんだろ。俺達を襲った盗賊もこういう人達だったんじゃないか?」

 「あーそこには気づかなかったです~。よくそんなこと分かりましたね~。実は頭良かったりします?」

 「別にそんなことはないよ。これくらい見てりゃ分かる。」

 「またまた~謙遜しちゃって~。普通は分かりませんって~。っとそれはさておきこの人達のこと何とかしたいですよね。」


 優しいフレミーはそういうが和樹は1人助けたらきりがないからと説き伏せる。理解はしているようだが引っ掛かりはどうしても残ってしまうみたいだった。それでも仕方ないと割り切るしかないのが世の中だ。


 そんな話をしながら歩いていると


 「それはそうとこれからどうします?私ちょっとお腹すいちゃってるですよね…何か食べません?」

 「確かに腹は減ったな。ギルドを探す前にどこかで買ってくか。けど、金持ってるのか?俺は無いんだけど…」

 「その心配は必要ありません!私でも少し位は持ってます。けど直ぐになくなっちゃいそうなので早くギルドに入ってお金を稼がないとですね~。」

 「そうか。なら今日は食べてしっかり休んだらギルドで頑張っていかないとな。」


 頼りにしてるからな?そう心の中で思っているとフレミーはまるでこちらの心を読んだかのように


 「はい。頼りにしてますよ、和樹さん。何せ私はここにはあなたしか知っている人がいないんですから!」


 それはもうはじけるような笑顔で言い、素直になれないでいる和樹の顔を赤くさせた。


 ほんと良い顔するよこいつ。そう思い和樹は素直に本音を打ち明けられない代わりにこう応えた。


 「任せとけ。」


 これは照れ隠しで強がりだ。だから言葉ほどのことは出来ないかもしれない。馬鹿っぽいが察しが悪い訳ではないフレミーはそれに気づいていてもおかしくはないのだが応えに満足したようで嬉しそうに何度も大きく頷いている。それと同時にあまりにも真っ直ぐな返事に恥ずかしさもあるのかはにかみ、それをごまかすようにこう言う。


 「じゃあお店を探しに行っちゃいましょう!何食べたいですか?」


 話を蒸し返すつもりもない和樹も話題を元に戻しいつの間にか止まっていた足を再び動かし始め、それまでの良い雰囲気の余韻に浸ったまま人混みの中に溶け込んでいくのであった。

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