第7話 この手に天下を

 なぜ人事部長が戻ってこれたのか。

 きっとあっちの世界でも、無能このうえなかったから強制送還されたのだろう。


 つまりは地上から無差別に人材を召喚し、必要なものをふるいにかけている。

 えげつない話である。

 いま空から降ってくるものたちは、異世界からリストラされたひとの群れなのだ。


 もちろんあくまでもぼくの憶測である。

 しかしそう考えでもしなければ、気持ちが落ち着かない。


 ぼくは人事部長だったであろう肉塊が動かなくなるまで、ひき殺すと、どんどん空から帰還者が降ってくるのを確認した。


「急がないと……」


 誰に聞かせるわけでもなく、ひとりつぶやく。

 そしてまたペダルを漕ぎ始めた。


 人事部長との対決――一方的にひき殺しただけ――から小一時間ほどで、目的地にたどり着いた。

 幸い、ほかの肉塊たちとは交戦状態にはならなかった。

 そもそも地上50キロメートル地点から落下してきて、すでに骨も砕けているのだから、わざわざ相手にする必要がない。


 そんなことよりも「あれ」だ。「あれ」を手に入れないと――。


 ぼくがたどり着いたのは、安売りの殿堂でおなじみの雑貨量販店だった。

 水、食料、発電機、電化製品その他。

 欲しいものは何でもそろう。

 ここに拠点を作りさえすれば、しばらくは生きながらえることが出来るだろう。


 そしてぼくがいまもっとも欲しているもの。

 それは――。


「あ、あった! あった! ほんとにあった!」


 18禁と書かれた暖簾の向こう。

 おびただしい数のアダルトグッズのなかに燦然と輝く真っ赤な神器。

 ほどよく掌に収まるサイズで、おしゃれなストライプの入った――。


「TE〇GAじゃあああああああああああ!」


 拝啓、母上さま。

 終末。

 いつもひとりですが、ぼくは元気です。




〈終末はいつもひとりです/完〉

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終末はいつもひとりです 真野てん @heberex

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