旅をして、砂と出逢う

気の迷いのような切っ掛けから始まる、アメリカ本土の旅。

心身に変調をきたし実家で療養する青年にも、この旅行が本当にすべきことかどうかはわからない。
けれども彼は、久方ぶりに味わった熱い情熱に押されるがまま足を踏み出す。この一歩が、停滞し続けている自分が変わる契機になると信じて。


療養中の主人公がじんわり感じる肩身の狭さや焦燥感と、ひょんなことからみなぎる活力と憧憬の再燃。そして、肌で感じるアメリカ大陸。
危うさを感じるほどのコントラストは五感・心情・環境から精彩に描かれ、読み手を容易に感情移入させる。

レンガ色の砂と同色の岩山。沈む夕日と染まる荒野。人の営みから切り離された、悠久なる流れから切り出したかのようなモニュメント・バレー……。
青年を通して見るアメリカ南西部は、どこまでも雄大であたたかで、懐が深い。


もしあなたが忙しない日々で疲れ、心身ともに摩耗してしまっているならば、
この作品の与える澄み渡った読後感に、きっと心救われることだろう。

その他のおすすめレビュー

犬童 貞之助さんの他のおすすめレビュー135