あなたは写真を撮ったことがあるだろうか?
この問いに対し、あると首肯する方が大多数だろう。
スマートフォンにタブレット端末。撮る手段は数あるし、それらは必需品と言っていいほどに社会生活の中へ入りこんでいる。
高額な機器機材を用いずとも、いつでもどこでも誰もが写真を撮れる時代。それが現代日本だ。
そんな「写真を撮ることが特別ではない」時代において、写真を生業とする写真家に何ができるのか。また、写真家を求める人はどういった存在なのか。
この作品はそれを軽妙に、しかし現実の一場面であるかのようなリアリティでもって描き出す。
存命中の家族の遺影を撮影せよという奇妙な依頼。心霊写真を撮ってくれという悪戯めいた依頼。一見首をかしげてしまうような物語の底には、登場人物たちの確かな過去と、違和を全く感じさせない緻密な動線が息づく。
何気ない小さな行動が、後になって重要なファクターとなっていく妙。実は有名なドラマの脚本だと言われれば、やはりそうかと納得してしまうほどの完成度である。
軽妙さも絶妙だ。
漫才のような会話劇や主人公のみせる切れ味鋭い突っ込み。思わず吹き出し復唱したくなるセリフや地の文は、読む者の心を掴んで離さない。
等々、長々と語ってしまったが、要はこの一言に集約される。
この作品は面白い。
もしあなたが「写真家ほど無責任な職業はないよ」というフレーズや作品タイトルに僅かでも興味惹かれたならば、是非とも手に取ってもらいたい作品だ。
読み終わった後、わたしは、作品の完成度の高さに舌を巻いてしまいました。
レビューを書きたいけど、この作品の奥深さを語るには、一朝一夕の言葉選びでは足りません。それほど、この作品に“当てられてしまう”人は多いはずです。
まず、個性的で謎めいた主要人物たち。彼らのことをもっと知りたくて、ページを捲る手が止まりません。
そして、挑戦的な題材。社会問題、世間を揺るがせた大事件、読む方によっては、もしかしたら受け入れ難い内容かもしれません。ですが、各題材ごとに、作者さんなりの結論に結びつき、読了後には、肉の塊を飲み込んだかのような、ずっしりとした感覚が胸に残ります。
ですが、なんといっても、「写真」というテーマによって、さまざまな「人生」が、掘り起こされていくのが魅力です。実際、本当の自分を隠す「仮面」を被って生きている人が、どれほど多いかわかりません。ですが、そんなみなさんには、今作が勇気と別れをくれるはずです。
どちらかといえば、制服を脱いで社会に飛び出し、青春やファンタジーを卒業した頃の読者さん向けかもしれません。
間違いなく、この作品の作者さんは、今後大物になります。今後の10年がとても楽しみです。
まず謝らなければならない。
自分が書くものに短編が多いことが作用してか、私は長い文章を読むことを敬遠する癖がある。
この作品のずらーっと並んだ目次を見た時も、正直最後まで読み切れる自信はなく、CASE1だけ読んで感想を書ければ上出来かな、くらいに思っていた。
ここまで書けばお分かりだと思うが、私は読まされたのだ。
CASE1どころか、続くCASE2、さらにまだ完結していないCASE3の既巻分、その最後の一文字まで。
この作品は「分類できない作品」である。
見る角度によって、純粋な文芸にも、ライトノベルにも、あるいは何かの漫画やアニメの原作のようにも、姿を変える。
この作者には、それら全てが重なり合う、針の穴のようなほんの小さな隙間に筆を落とす確かな目と、それを生き生きと描き切る筆力がある。
何言ってんだ、と思うだろう。
私も本作を読む前にこんなレビューを目にしても、きっと信じなかった。
とにかく読んでみて欲しい。
読めば分かる、としかいいようがないのだ。
最後に、作中の言葉を引用する。
「写真はボクらの意図や思惑を超えることができるんだよ。ボクはその瞬間が何よりも好きなんだ」
この作品は写真そのものだ。
読者の意図や思惑を遥かに超える、そんな物語の喜びが確かにあることを、私は約束する。
まだ連載中だが、完結まで書ききってほしいのでその一助になればと思いレビューを書いた。
カメラというのは魔性だ。カメラに魂を抜き取られると言われた時代があったが、現実から時間という概念を捨て、ただ一瞬を切り取るという行為に意味を見出した先人たちは偉大だ。何にせよ、思い出を保存して置けるのだから。
この作品がシリアスな展開でありながら、それでもスラスラと読めてしまうのは、作者のユーモアが僕たちが物語に没入する手助けをしてくれているからだろう。まるで漫才を見ているようだ。
ギャグを挟みながら小気味よく、時に人間の確信に触れる物語のリードは、今の僕には真似できない。口惜しいことに僕も創作を嗜んでいるのだが、こればっかりは実際に読んでもらわないと空気感が伝わらないだろう。特にテロリスティック。
また、家族の根深い問題に切り込みながらも、解決できることと出来ないことを分けて、最後まで依頼者の願いを叶えようとするササキのプロ意識には敬服する。
そして彼の言った、写真家ほど無責任な職業はない。写真を切り取るのは、一瞬。そして、どんな写真ができるかは撮ってからでないとわからない。
確かに、無責任とも取れる。しかし僕は、写真家ほど真摯な職業はないと思う。何故なら、不確実であるという結果を知っていたとしても、あえて依頼主が求めているであろう最高の一瞬を切り撮ろうとするからだ。
誰でもスマホで写真が取れる時代。女子高生でも画質だけならプロのカメラマンにも劣らないかもしれない。そんな時代で、カメラマンの役割とは一体何なのだろう。僕にはまだ答えが出せていない。
それは、もしかしたら、この作品が完結したときには分かるのかもしれない。
“優れた作品は人を孤独にする。” というのは本作の中で登場するフレーズだが、この『写真家・ササキの存在意義』を読んでまさにその感覚に陥ったような気がする。
その人だからこそ思いつくアイデア、紡ぎ出せる言葉、芯の通ったメッセージ等々、自分にはない才能を目前にした時の、得も言われぬ孤独感。
孤独ではあるものの、清々しさや愉悦が付随するその感覚は、ある種のカタルシスのようでもある。
スマートフォンなどで手軽に高画質の写真を撮れるようになった現代において、“写真家”という職業に中々の新鮮味を感じる。
被写体のとるべき体勢を指示し、ちょうど良いところでシャッターを押す。大雑把に考えるとそれだけのことに思える写真撮影という行為が、途方もなく奥の深いものであることを本作を読んで実感した。
完成された渾身の一枚には、その人の送ってきた人生が凝縮されているのだ。
写真家というのは、優れた技術だけで一流たり得るものでは決してない。
被写体と向き合った時、その人が何を思って依頼してきたのか、その写真に込める想いは何なのか、写真が完成した先にあるものは何か、そうしたパーソナルな感情や事情に足を踏み入れ、相手の気持ちを程よく汲み取っていこうとする気持ちが大切な仕事であるように感じた。
写真家・ササキだけでなく、彼を支える主人公の赤坂と、ササキへの依頼人である枢木の掛け合いも見ていて面白く、ユーモアを感じられる。
018まで読んだ上での感想となるが、この先の展開も期待したい。