琥珀色の日々

深水千世

序章 琥珀色の黄昏

 夕闇が地の底から這い上がる頃、『Bar琥珀亭』と記された真鍮の看板を琥珀色のライトが照らし出す。見る人の胸をほっとさせる温かみのある色は、先代が切り盛りしていた頃から変わらない。


 私はいつものように木製の重い扉を開け、鳴り響く呼び鈴の音を聞いた。そして迷わず、カウンターの一角に腰を下ろす。


 季節の花がいけられた一輪挿し、ポケットに入れていたせいで少しよれたハイライト、ボトルの並ぶバックバー、目の前に置かれたバーボンのボトルとロック・グラス、そして笑顔で迎えてくれる二人のバーテンダー。それが私の毎晩見ているものであり、舞台でもある。


 そこに居合わせた人々が垣間見せる人生の一幕を肴にちびちびやるのが日課なんだ。もう何十年も同じ酒を飲んでいるが、どんな演目が繰り広げられるかで不思議と味も変わる。だから病み付きなんだ。


 そう、今夜も琥珀亭で。

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