第9話 一生の宝物

 第8話からの続きでございます。


 高校図書室の司書である海津先生。実はフルネームで覚えておりますが、ここでは伏せましょう。

 その海津先生ですが、8話目でもお話しましたように、図書委員を司書室に入れてくれるんです。昔なのでね、冬場は司書室にもストーブがあるんです。ファンヒーターじゃないですよ、ダルマストーブってやつです。底部に灯油を入れて、天板にヤカン掛けておくとお湯が沸くやつね。

 図書室は広いんですが司書室は狭いので、同じストーブ置いてたらあったかいわけですよ、司書室の方が。

 当然ですが、図書委員は司書室に集まっちゃいます。


 海津先生、空気が乾燥しないように、ストーブの上にヤカン掛けてるんですね。いつもシュンシュンいってるんですよ、ヤカンが。

 でもって、我々が行くと先生が紅茶を淹れてくれるんです。それで先生と我々図書委員で、いろいろな本の話で盛り上がるわけです。


「次の図書館報、どの本の紹介する?」

「グイン・サーガでしょ」

「タカコはいっぺん栗本薫から離れろ」

「そう言うタンちゃんも新井素子から一旦離れろ」

「言う前に拒否すんな」

「星新一は?」

「星新一、好みじゃない」

「お前の意見は聞いとらん」

「えっと、『ミイラ』面白かったよ……」

「如月いつからそこにいた?」


 委員長とは名ばかりでございます……。はい。黙って紅茶淹れます。陰キャですからね!

 それを先生は楽し気にそばで眺めているわけです。


 先生は50代のおばちゃん。自分の子供くらいの子たちがワイワイやってる横で話を聞きながら、たまにナイスアシストしてくれるわけです。


「グイン・サーガとか新井素子とか菊地秀行とか、そういう流行りものはみんなが知ってるから。みんなが知らないようなのを発掘して伝えるのがあんたたちの仕事じゃないの?」


 ご尤もでございます。

 図書委員がスコップせずに、一体誰がこの図書室に埋もれた良書を紹介するんだよ。だから『ミイラ』って言ってんじゃねーか。ここ十数年でこの本借りたのは私だけなんだから(8話参照)。

 一般ウケしないので『ミイラ』は採用されませんでした、はい。内容は私自身もよく覚えていません。ダメじゃん。


 ただ、その時『ミイラ』にしなかったのは理由がありまして、ウケなかったからというのが最大の理由というか、図書委員の面々が頑として首を縦に振らなかったからというか、私も別に推してたわけじゃないというか(おい!)。


 じゃなくてですね、いい本があったんですよ。とてもいい本が。私が激推ししたんです。

 児童文学でした。小学校高学年用の推薦図書だったんです。それが高校の図書室にあった、誰が入れたんだろう?

 児童文学だから、高校生ならどれだけ活字に親しんでいない子でもスルリと読めちゃうんです。しかも難しい事なんか何も書いてない。

 字も大きいし、空白もたくさんある、挿絵も多い。


 なのに内容が深い。濃い。心に残る。

 恐るべし児童文学! べし児童文学! 児童文学 文学……(エコー)


 如月が今まで読んだ本の中でトップスリーを挙げろと言われたら、その本がナンバー1で夏目漱石の「こころ」がナンバー2です。3はまだ空席です。


 『かあさんは魔女じゃない』(ライフ=エスパ=アナセン著)←これです。

 ネタバレを含みますがnoteでも感想を書いてますので気になった方はぜひ覗いてみてください。

https://note.com/kisaragi_yoshimi/m/m21aee28a0730


 まあ、これをしつこくしつこく何度も読んだわけですよ。読むたび読むたび号泣するわけなんだけど、それでもまた読んじゃう。

 集団心理、偏見、権力への追随、人の心の弱さを徹底的に見せてくる。

 こういうのが読みたかったんですね、あの頃ね。それは今でも変わらず。


 どんだけしつこいねん( ゚∀゚)o彡バシッ ってくらい読んじゃったもんで、その海津先生が「ほんとにこれ好きなんだねぇ」って。私が卒業する時にポケットマネーで新品買ってプレゼントしてくださったんですよ。

 多分、みんな知らないと思う。タカコもタンちゃんもイチコも。


 その本は如月の一生の宝物として我が家の宝物殿机の本棚に鎮座しております。

 いや、みんな、読んで? マジ、読んで? 凄いから!

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