第3話 子供の頃に夢中になった本覚えてる?

 子供の頃に夢中になった本ってなかなか忘れないんですよねぇ……なんて話をよく聞きます。感受性の豊かな頃に夢中になったからなんでしょうかね。


 可愛げのないガキだった如月は、夢中になった本の中身を全然覚えてないんです!


 タイトルは覚えてます。表紙のイラストもちゃんと覚えてる。なのにストーリーを全然覚えてない。

 登場人物もわからないし、楽しい話か、悲しい話か、怖い話かも覚えてない。


 第2話で紹介した『からすのパンやさん』もそう。どんなストーリーかわからないんですよ。家族総出でパンを作っていたことくらいしか覚えてない。パン屋さんが傾いたんですかね。普通のあんパンじゃ売れなくて、奇妙なパンをつくったのかな、それくらい覚えてない。

 なのに、どんなパンがあったかは割と覚えていて、自分の好きなかたつむりパンとかスネークパンはちゃんと覚えてる。


 覚えていない名作の代表格が『おしいれのぼうけん』(古田足日ふるたたるひ著)です。

 これこそ十数回読んでるんですよ。悪ガキ二人が何かをして押し入れに閉じ込められるんだけど、押し入れの中がどこかに繋がってるか何かで冒険するんです。喧嘩して閉じ込められた二人が協力して冒険するんじゃなかったかな。

 でも、どんなところに行くか、誰が出てくるか、どんな目に遭うか、どうやって帰還するか、ちっとも覚えてない。

 そもそもこの二人、友達なのか、兄弟なのか、その関係すら覚えてないんです。表紙イラストは、押し入れの上の段と下の段からそれぞれ二人が腕を伸ばして手を取り合ってるんです、しましまパジャマ着て。

 どこの押し入れなの? 誰に閉じ込められたの?


 だけどね、これ、覚えていなくてもいいんじゃないかなと思うんですよ。『同じ本を何度も読んだ思い出』として、タイトルや表紙絵だけでも頭に残っていればいい。いつかそれを思い出したときに「もう一度読み返してみよう」って思えるから、忘れちゃうのもいいかもしれないなと。

 あとで読み返したときに、その頃の記憶が蘇ってくるかもしれないし、新たに別の感想が出てくるかもしれない。そりゃそうだ、子供の頃の感想と大人になってからの感想が同じわけがない。


 学生時代に読んだ村上龍、また読もうかな。

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