第5話 図書室通いは現国の教科書から
ありがちな話ですが、高校生の如月は図書委員でした。一話目で話した通り、特に読書が好きだったわけじゃないんですよ。図書室なんか全然行かなかったし。
小学校・中学校・高校と図書室なんか行った事のない如月が唐突に図書室通いを始めたのは、確か現国の教科書で夏目漱石の『こころ』のごく一部を読んだからなんですよ。
なにこれ凄い、面白い!
全部読みたいと思って図書室に行ってみたのが始まりです。
なんかね、苦手だったんですよ。図書室の雰囲気みたいなのが。シーンとしていて、誰もいなくて、物音立てちゃいけないようなあのなんとも言えない居心地の悪さ。だからそこで本を読もうという気には全くなれずに、本だけ借りて帰ったんですね。家で読めばいいんだし。
まだ当時は本の最後のページにポケットが付いていて、そこに貸し出しカードが入ってた。今みたいにバーコードで管理なんかしてないので、図書委員か司書の先生が返却日のハンコを押してくれるんですね。
とにかくその苦手意識の塊みたいな部屋から早く逃げ出したかった。それが図書室との出会いでした。
ところが。
面白かったんですよ、夏目漱石。いや、他のは読んでないんですよ、『坊っちゃん』も『吾輩は猫である』も読んでないです。私自身はまるっきり読書家とかいう人種とは対極の位置に居ましたから。今でもですけど。
ただ、あんまり面白かったんで、他にも読んでみたくなってしまったんです。
とは言っても相変わらず図書室は苦手です。あまり奥まで入りたくありません。
そこで、入ってすぐの壁際にあった本を手に取ってみました。なんとなく「これでいいか」くらいの気持ちで、借りてみました。
それが『コロボックル物語』(佐藤さとる著)だったんです。入ってすぐ左の棚の、目の高さの一番近くにあった、たったそれだけの理由です。
はい、ハマりました。これシリーズもので6冊あったかな。1冊返却して、残りを全部まとめて借りました。何度もこの部屋に来るのが嫌だったからです。
そのあと、だんだん図書室の奥に進出するようになり、気づいた時には入り浸るようになっておりました。
そうなると今まで気づかなかったんですけど、図書室って『常連メンバー』がいるんですね。だんだん彼らと仲良くなっていって、「あれが面白い」「これ読んだ?」なんてな話になって行くわけです。
タカコと呼ばれていた友達(名前はリエだが)から『グインサーガ』シリーズ(栗本薫著)を勧められ、そこから同じ栗本薫先生の『魔界水滸伝』を読んでクトゥルフとは何ぞやを知り(結論:タコのおばけ)、タンちゃん(名前はノブコだが)からは「新井素子読みなよ」と勧められ、イチコ(名前はミヤコだが)からは「赤川次郎読みな」と……。
当時のラノベ作家目白押しという感じですが、なぜ図書室にたむろしていた彼女たちは、全く名前と関係ないニックネームで呼ばれていたんだろうな?(それこそ関係ないけど)
まあそんなこんなで、図書室というものに対する偏見は、現国の教科書のおかげでなくすことができました。
教科書に『こころ』が載ってて良かった!
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