主人公=伊織さんの祖母である静さんのお葬式。
そこに不意に現れた綺麗な少年風の付喪神の願い。
それは静さんと共に葬られること。
しかし伊織さんは目の前の、生まれたばかりの生命にそんなことは出来ないと、付喪神の要求を拒否してしまう。
そこから伊織さんの悩みが生まれて……。
静さんの櫛が付喪神として体を与えられたのはなぜなのか。
伊織さんの疑問は、そのまま私が日頃抱いている疑問に結びつきました。
そしてこの作品には答えが書かれていました。
心が洗われ、軽くなりました。
読み終わったあと、無意識に自分の身の回りや風景に思いを馳せてしまうような、人生の明度を上げてくれる小説でした。
一人の人物の終わりから始まるこの物語。
その人のお葬式で孫である主人公が一人ロウソクの番をする。
この時点ですでに静かな時間の中にいて、彼は祖母との思い出を思い起こしている。
そしてそれが動きだすのだ。
その動きは他の人には見えなくて、彼にだけ見えている。
祖母の大事にしていた象牙の櫛の付喪神。
祖母と付喪神の間にあるものが何なのか、多くは語られてはいないけれど、共に過ごした時間がとても大事なのは伝わってくる。
彼の願いはただ一つ。
祖母である静と共に葬られる事。
でも主人公の伊織が彼に感じるものも大事で、この時点で伊織は彼の思いを拒否してしまう。
それに対して彼は少しだけ伊織を受け入れるのだ。
静と過ごした時間と伊織と過ごす時間。
何だかそこに普遍性を見る気がした。
結局、付喪神にとっての静との思い出の場所が、同じように伊織との思い出の場所になる。
一つの静という雫が付喪神を象って水輪を描くように広がって、伊織にたどり着く。そんな感覚の物語にさらにいろんな感じるものがあって……
それは読む人の中に静に息づくように思うのだ。
読んで欲しい物語の一つです。