静かに広がる物語

一人の人物の終わりから始まるこの物語。
その人のお葬式で孫である主人公が一人ロウソクの番をする。

この時点ですでに静かな時間の中にいて、彼は祖母との思い出を思い起こしている。
そしてそれが動きだすのだ。

その動きは他の人には見えなくて、彼にだけ見えている。
祖母の大事にしていた象牙の櫛の付喪神。
祖母と付喪神の間にあるものが何なのか、多くは語られてはいないけれど、共に過ごした時間がとても大事なのは伝わってくる。
彼の願いはただ一つ。
祖母である静と共に葬られる事。

でも主人公の伊織が彼に感じるものも大事で、この時点で伊織は彼の思いを拒否してしまう。
それに対して彼は少しだけ伊織を受け入れるのだ。

静と過ごした時間と伊織と過ごす時間。
何だかそこに普遍性を見る気がした。

結局、付喪神にとっての静との思い出の場所が、同じように伊織との思い出の場所になる。
一つの静という雫が付喪神を象って水輪を描くように広がって、伊織にたどり着く。そんな感覚の物語にさらにいろんな感じるものがあって……

それは読む人の中に静に息づくように思うのだ。
読んで欲しい物語の一つです。

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