筆致は軽妙。ストーリーはシリアス。主人公はコミカル。
そのバランス感覚が素敵でした。
この物語に出てくる人それぞれに物語があって、例えば主人公が気になる婚約者のいとこにも壮大な青春ドラマがあったりするわけですね。いわゆる敵役(かたきやく)と言われる人にもリアルタイムに動いていくドラマがあるわけです。
そしてそれは焦点の当たっていないところでも起こっていて、突然理不尽に起こったように見える出来事も、自分の目に映っていなかっただけでしっかり事態は進行していたわけです。
度肝を抜くラストシーンは、思わず笑っちゃうくらいにびっくりさせられたのですけれども、ちゃんと伏線が張ってあって丁寧だなあと思いました。
坂水さんの作品は先が読めないものが多くて、最後まで読まないとこの物語がどこへ向かっているのかわからない。
でも、それがとてもいいのです。
そして最後の最後まで読んで納得してしまう筆運びの上手さがあって、毎度毎度唸ってしまう。
秀逸な文章もさることながら、どこかにありそうな普通の人たちが出てくるけれど、よくよく読んでみるとどこか違う。
それに気づいた時にはもうこの物語から逃れられなくなっている。
不思議なことにこの物語に起こる事件(?)は後味悪いはずなのに、読後感がいいのはなぜだろう。
心に残るのはなぜだろう。
一言言えるなら(彼女の作品にはどれにも言えることなのですが)ストーリーの中のどこかのシーンが必ず心に残るのです。
だからもう一度読みたくなって確かめたくなる。
この物語もそんな気配があって二度目を読んでしまいました。
私、主人公が好きです!
何やら内気というか、オタク気質というか、妄想が加速する体質というか、そんな主人公が結婚相手になるはずの夫…の従姉妹(妙齢のイイ奴)に会うことに。
その従姉妹、どうも夫とただの従姉妹ではない関係だったようで…。何やら不穏でゆらりと嫉妬の感情が湧き、そして同時に、オタとして素敵そうな雰囲気を感じる主人公なのですが…。
他人事であれば興味津々で安全な所から見ていたい、そしてあわよくばネタにしたい関係。ちょっと申し訳ないけど、ありますよね。でも、それが自らの身にふりかかっている事象だったら? しかも、結婚というある意味、結構人生的にウエイト高そうなイベントだったら。そのとき、主人公の取った、あるいは、取らなかったアクションとは。
夫、従姉妹、そして主人公、読む方にとって感情移入というか、スタイルというか、意見というか、そういうものの託し先が変わってくるような読み方もできるお話です。
それにしてもさ、駄目だよ主人公!私はそういうの良くないと思います!じぶんごとでしょ!しっかり!
…なんて、読んだ皆でワイワイ話すのが面白い系のお話じゃないのかな、と思いました。面白かったです。