第13話「龍の鯉のぼり☆」

「ルナルナムーンジャベリーーーーン!!」



 金の龍が刺繍されたピンクラメのスカジャン、黒のタイツと赤いタータンチェックスカート、まぶかにかぶった少し大きめの真っ赤なベースボールヘルメットには重苦しい雲から落ちた雨粒が「ポタリ」、きょうのルナは少し攻撃的なスタイルでバットを天高く雲間へと投げつけました。



「ぐぬわっっ!!!!」



「河童あたったわ! 落ちてくる! 川! 川よ!!」

 ルナは天を指差しながら大きな橋のらんかんの上に立ち落下地点を河童に伝えます。


「え、え、えーーーーーー?!」

 河童は慌ててその大きな橋から川へと飛び込みました。


「マジか!? マジ殺ったのかを!!」

 ゴブリンくんは「ぐぬりゅり!」と蛇のように身体をねじる、まだ若い金色の東洋龍が落下するさまをルナへの恐怖と共に見続けていた。


「殺ってないよ! ちゃんと手加減した!」

 ルナはゴブリンくんに人を暴力の権化ごんげ見たいに言わないでっとばかり言い返すが、完全にルナが投げつけたバットは空を駆ける細身の金色の龍の後頭部に見事なまでに綺麗スッキリメガヒットしていた。


「ルナーー!! 無理ーー!! 龍様超暴れてるーーーー!!!!」

 河童は龍が川へ「ベシャリン!」と落ちた瞬間、若い小型の龍とはいえ暴れるそれに、それでも長い尻尾の先に必死でしがみつきながらまた飛び立とうとする龍を川にとどめておこうとその尻尾を引き続けました。



※ここで逃がそうものならルナにどんなお仕置きされるか解りません!



「河童ーー! 離さないでーー! 今とどめをさすからーーーー!!」

 ルナは完全に「とどめさす」とか言ってます。


「バカルナ! とどめさしちゃ駄目だろ!」

 ゴブリンくんがルナをいさめます。


「大丈夫! ちゃんと手加減してとどさすから!!」

 ルナは[とどめ]の意味を理解していないご様子です。



「ルナムーサルトかかと落とし!!!!」



 川で河童にしがみつかれ川面かわもを低空でのたうつ若き龍に橋から飛び降りたルナの渾身のかかと落としが炸裂した!!



 そしてたぶん若くても偉大であろうその金色龍はその長い背骨(短く付いてる前足から後ろ足までがたぶん背中)をUの字に折れるようにそらせ「バシャン」と腹から川へと落ちるのだった。



「相変わらず酷いなルナ……」



【20xx年5月5日】

 雨降る中、一匹ゴブリンは橋の上から恐るべき龍狩り少女の姿を見たと言う。



◇◆◇◆



「金色、あんた今日はウチで鯉のぼりやりなさい!」


 出た! ルナの理不尽リクエスト!!


「我が鯉のぼり?」


「だってあんたちょっと前まで鯉だったんでしょ?」


「確かに我は鯉から龍に成って間もないが……」


 ルナに頭を抱えられ気絶したワニのように川から引き上げられたついこの間まで鯉だった金色の龍はヘッドロックされたまま鼻から何かの赤い液体を垂れ流しながらルナの理不尽な要求を聞かされました。



「「お願いします龍の人!!」」



 河童とゴブリンくんは「頭のおかしな暴力の権化がごめんなさい!!」と若きたぶん偉大な龍に「言う事聞かないとみんな危ないんです!!」とばかりに土下座してお願いした。


( ノ;_ _)ノ( ノ;_ _)ノお願いでゲス~~


 そして少し意識が戻り始めた金色の龍は首輪を引かれ獣医師の予防接種を嫌がる犬のようにその短い足を四本突っ張り逃げようとするが、何か強大な力で締め上げられているかのように頭が固定されていて身動きが取れない事に恐怖しました。


「これ不味いやつにつかまった……」

(-_-#)| ̄|_| ̄|_| ̄|_| ̄痛てて……


「「命の危機でございます龍様、言う事聞いて下さい!」」

( TДT)( TДT)助けると思って~~



 河童とゴブリンくんは自分たちと共に同じルナ被害者の龍様も助けたいと思いました。



◇◆◇◆



「かしわ餅美味しいね♪♪♪」


 ルナはバットとヘルメットを蔵へと放り込み少し晴れ始めた空を確認、裏庭が見える母屋の縁側えんがわに一人座りかしわ餅を一口ひとくち、そしてかしわ餅のお皿の隣にはグリーンティー。


 裏庭にはルナのお爺ちゃんが子供の頃に立てたと言う高く鈍い銀色をしたステンレスポールがあり、その上でたぶん偉大な金色の龍が見事に繋がれ、そして見事にはためく。


「あー、お茶美味し」

 ルナはやりきり至福の時。



「「あの龍様一仕事済みましたらこちらをどうぞ……」」



 河童とゴブリンくんがお供え物として大量のかしわ餅とお茶をポールの下へと置いた。


「ね~~金色~~~~!! 龍ってお餅喉に詰まらせたら大変だよね~~~~♪♪」

 ルナがはためく金色の龍の長い首と胴体を見ながらどうでも良いことをほざきました。


 河童とゴブリンくんは龍相手にこの態度を取れるルナの恐ろしさを、ルナとルナのお婆ちゃんが用意してくれたとっても甘くてとっても美味しいかしわ餅と共に改めてかみしめました。


「かしわ餅美味しいねゴブリンくん」


「ああウマイな河童くん」



 生きてるって素晴らしい!



◇追記◇

 そして[たぶん偉大なる若き金色の龍]はステンレスポールでの一仕事終え、しこたまかしわ餅を食べて長い喉に詰まらせた挙げ句熱いお茶をがぶ飲み、そのまた長い喉と舌と上顎にやけどしたあと、後ろ足で砂をかけるように天高く広がった雨上がりの清んだ五月の空に逃げるように飛び立って行きました。


めでたしめでたし?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る