第10話「お婆とひな祭り☆」

「ねえーお婆、お内裏だいりさまどっちが右だっけ?」


 月子つきこは息を切らせて学校から帰ると朝庭先の白い梅の花を胸ポケットに飾ったセーラー服を着替えもせずに二つの和室の連なった部屋でお婆ちゃんとひな祭りの準備をしていました。


「そうだね~、お婆ちゃんが子供の頃は男雛おびなを向かって右に女雛めびなを左に飾っとったけど、今は逆かね~」


 雛人形はお婆ちゃんが子供の時お婆ちゃんのお母さんに贈られたものでとても立派な七段飾りでした。


「何でー?」


「ほれ、この雛人形は京雛きょうびなだから、今は関東に合わせて逆にしとるんよ」


「でもここ西だぞお婆?」


「明治維新以来西洋風になって関東から全国的に変わったんだよ」


「へー、お婆いくつだよ☆」



 お婆ちゃんの年は秘密です。



「じゃあお婆二段目、三人官女は?」


「既婚者で眉の無い鉄漿おはぐろの人が真ん中、向かって右が長柄ながえの人、左が提子ひさげの人だよ」


「眉なし虫歯がセンターで柄杓田ひしゃく持ちが右、ヤカン持ちが左ね☆」


「月子の言い方は情緒がないね、虫歯じゃ無いしね」



 お婆ちゃんは月子の言い回しが面白くて笑いました、そして月子はファッション文化には詳しいのでワザとです。



「次は五人囃子ごにんばやし


「三段目の五人囃子はね、向かって右から並べて扇を持っているうたいさんから、ふえ小鼓こつづみ大鼓おおかわ、それから太鼓たいこと並べるんだよ」


「解った、歌って吹いて太鼓のチッサイ順だね☆」


 ララ~♪ ピー♪ タン♪ トン♪ ドン♪o(`・ω・´)○



 お婆ちゃんは雛人形の並べ方を毎年聞かれるので絶対解ってないと思いましたが、月子とのこの会話が毎年楽しみでした。



「じゃあ次右大臣うだいじん左大臣さだいじんは?」


「四段目の随身ずいじん様はねお髭の通称左大臣、左近衛中将さこんちゅうじょう様が向かって右、若い通称右大臣、右近衛少将うこんのしょうしょう様が向かって左よ、左右は男雛から見ての左右だよ月子、二人とも偉い人なんだよ」


「ジージなのに弓とか持っててかっこいいよね左大臣、きっと凄腕だよ☆」



 月子はイケメンの右大臣は脱ぐと凄い身体からだしてると思いました♪



「最後は……何だっけ?」


「五段目は仕丁しちょうさん、三人上戸さんにんじょうごだよ、ちり取りをもってて怒ってる人がまん中、向かって左に熊手くまでの泣いてる人、向かって右にほうきを持って笑ってる人だよ」


「そうそう、御庭番、きっとNinjaだね☆」



 ……お婆ちゃんは何故Ninjaが英語発音だったのか月子のセンスが解りませんでした。



「お婆、ひな祭り楽しいね♪」


「そうだね~、でもひな祭り終わったら直ぐしまうんだよ、お嫁に行くのが遅れるからね」


 お婆ちゃんは毎年の様に月子にそう言うと、月子も毎年の様にこう返す。


「お婆とずうーーーーっと一緒だからお嫁には行かないよ~~~~♪」



 月子はお雛様を飾ると畳にペタンと座り「明日はちらし寿司食べたい」とお婆ちゃんにせがむのでした。

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