俺たちはみな、何かに欠けている

現実的には、完全な人間はいない。人というのはみな、何かに欠けているものだ。

精神的に、或いは肉体的に。
生まれかもしれないし、育ちかもしれない。

仮に本人に要因がなくとも。時代という抗えない大きなもの、人の手の届く世界そのものが何かに欠けている。

他人が後世の者が、あれは過ちだというのは簡単だ。現実には、世の中の構造はずっと複雑で、人は完全ではない。国でさえも。

人は群れを作れば、他者に群れの中での正しさを求める。人は理解に困難を感じれば、世界に単純さを求める。
それは創作であっても変わらない。読者というのはとかく、正しさを求めたり、正しくないものに罰を求めるものだ。現実が複雑で欠けているからこそ、娯楽にそれを求めるのは当然なのかもしれない。

もし、作者が人間の不完全さをありのままに描こうとするのなら、娯楽作品であることを投げ捨てるか、その段階を飛び越して作品として成立させる高い技術、なによりも人間に向き合う覚悟が必要なのではないか。


『ディ・ア・レ・スト』

この作品には、その両方が過不足なく備わっている。

不完全な人間を描こうとする真摯さ、誠実さ。その重く複雑なテーマを娯楽作品として磨き上げる技術――



――とかなんとか。
カッコつけてレビュー書いてみたけど、何を書いても蛇足だと思うので忘れて。趣味に合いそうなら是非読んでほしい。

読んで良かった。出会えて良かった。ありがとう。

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