第12話 冒険都市カルディア




 僕達一行は冒険都市カルディアの門を潜っていた。

 ようやくの到着だ。ここにアイはいるんだろうか?

 どうなるにせよ早めに再会したいね。彼女は今頃何してるんだろう。


「ふむ、賑わっておるな」


 馬車を降りたノエルはカルディアの人の多さを見て呟いた。

 僕とノアもそれに続いた。


「以前よりも人が多いようですね」


「だね」


 王都よりは当然少ないけどそれでもそこそこの賑わいを見せていた。

 魔王がいなくなった影響なのか、人々の暮らしは活発になっている気がする。

 そこら中に溢れるカルディアの人たちの笑顔に、僕達の旅も無駄じゃなかったんだって思えた。


「お主らはここに来たことがあるのか?」


「ですね。といっても数回だけですけど」


 ノエルに答える。

 冒険都市というのはその名の通り冒険者組合の総本部があるからそう呼ばれている。

 周囲には魔物が出現しやすい森と山岳地帯に囲まれていて、人の出入りも盛んだ。

 ちなみにここでの冒険者登録は縁起がいいとされていて、パーティーの皆といつかここで冒険者登録をしてみたいなんてことも話し合った思い出があった。

 しかし、だからこそ荒事が多い場所でもある。

 自分の強さに自信を持った人や、夢を見て田舎から出てきた駆け出しの人だったり様々だ。

 さすがに勇者として後れを取ることはないだろけど用心に越したことはないね。ノアは強いけど何かあれば僕が守らないと。

 僕たちをここまで連れて来てくれた商人の人や護衛の冒険者の人たちにも軽く挨拶をしておく。


「ここまでありがとうございました。うちの商会に御用がある際にはサービスしますのでぜひお立ち寄りください」


 報酬を受け取った。

 何も起きなかったけど、護衛は護衛ということで金貨をいくらか頂戴する。


「では、妾も行くかの。ここで別れじゃが縁があればまた会おうぞ」


 ノエルとは仲良くなれたこともあり、お別れは寂しかったけど仕方ないことだ。

 旅に別れは付きものだし、彼女の言う通り縁があればまた会えるだろう。

 僕たちも行くとするかな。

 アイがまだここに滞在していれば運よくこの都市で再会できることもあるだろう。

 なんにせよまずは情報収集だね。


「行こうかシロ」


「畏まりました」


 僕たちは冒険都市カルディアの地を歩きだした。









 冒険者組合本部にて。

 巨大な木造の建物。看板には『冒険者組合カルディア本部』と書かれていて常に冒険者の人たちが出入りを繰り返していた。

 僕のパーティーでは唯一アイが冒険者の資格を持っている。彼女はランクには興味がないらしくDで止まってるけど実際にはそれ以上の実力があるからギルドとしては扱いに困ってるのだそうだ。


「相変わらず壮観だ……いつか皆で登録したいね」


「ご主人様が冒険者になればすぐにSランクですね!」


 ふんす! と鼻息荒く僕を持ち上げてくれるノア。確かにそこまで難しくはないだろうけど今回用があるのはここじゃない。

 ギルドのすぐ隣に冒険者ギルドが経営する酒場があるんだ。

 クエストから帰ってきた冒険者たちが打ち上げとかで良く利用してたりする。

 僕は酒場の扉を開いた。ノアも後ろからついてくる。

 顔を隠すというのはやはり目立つのかジロジロと見られることが多かった。

 というか今更ながらこの仮面逆効果なんじゃないかって思い始めてる。写真がないこの世界でわざわざ僕の顔なんて誰も知らないだろうし。


「いらっしゃい。注文は?」


 カウンター席までやってくると、マスターが話しかけてきた。

 スキンヘッドに筋骨隆々のその姿。さらにはエプロンなんてかけてるもんだからギャップが凄い。

 ちなみに酒場は情報共有の場としても良く活用されている。

 マスターの耳には色んな冒険者の噂が入ってくるし、情報屋としての側面もあるんだ。

 僕も以前来た時は色々とお世話になったりした。


「勇者の仲間のアイがこの都市に来てるって聞いたんですけど」


「ああ」


 お、どうやら当たりだったようだ。問題はまだ滞在してるのかどうかだね。

 マスターにチップとして銀貨を渡した。

 気を良くしたのか彼の口も軽くなる。


「少し前にこの都市に来たらしいんだが、狂戦士がここの酒を飲みまくってたな」


 アイの酒癖は再発していたらしい。ちなみに狂戦士とはアイの異名だ。本人は結構気に入っていた。

 思わず苦笑い。以前アイには体の事を心配してお酒は控え目にした方が良いよって言ったんだよね。

 最初の頃こそ聞いてくれなかったけど、いつからかお酒を飲むことはなくなってたな。

 「煙草とかお酒みたいな嗜好品はキスが臭くなるわよ」なんてルーシャによく揶揄われてたよね。

 彼女も女の子だからその辺りは気になるんだろう。

 言葉を詰まらせたアイに「れ、レンヤはどう思う?」なんて聞かれたっけ。

 キス云々は経験がないから分からないけど、僕個人の意見では戦術的な理由もあった。

 嗅覚が鋭い敵がいたらすぐに見つかるし、出来る限り体臭は消すべきだと思った。特にこの世界特有のお酒の臭いは地球の物より特徴があるから見つかりやすいし。

 だから僕も「お酒の臭いは駄目だね」って言っておいた。アイの健康にも悪いだろうしね。

 思えばアイがお酒をやめたのはその辺りからだった気がする。戦い好きな彼女らしく不利になることを理解してくれたんだろう。

 うんうん、さすがパーティー最強の前衛だね。理解力と自制心の強さに感心したものだ。


「もう1つ面白い情報があるぜ?」


「? なんです?」


「教えても良いんだが、注文くらいしてくれてもいいんじゃないか?」


 確かに酒場で何も頼まないのも悪いな。冷やかしみたいになるし。

 簡単な食事と果実水を二人分頼む。

 ノアも喉が渇いていたのかお礼を言って口を付ける。


「それで面白い情報とは?」


 さっそく面白い情報とやらを教えてもらった。


「闘技場は知ってるか? この都市のど真ん中にあるんだが」


「え? まあ知ってますけど」


 そりゃそうか。とマスターは言う。

 冒険都市カルディアの名物の一つだ。

 冒険者同士の私闘に対して基本的に冒険者組合は不干渉を貫いている。やるならどうぞご自由にって感じだね。

 けど例外もあってそれが闘技場での”決闘というシステム”だ。

 簡単に言うとギルド立ち合いの下で冒険者同士が戦うんだ。

 決闘前に互いが望めば契約に従って負けた相手に自分の要求を呑ませることができる。

 『お金を寄越せ』って契約書に書いてれば負けた時に本当にお金を払わないといけなくなるし、1週間パーティーを組みたい、ご飯を奢れ、など要求は色々だ。

 結構理不尽なルールに思えるけど、あくまでも常識の範囲内が原則だ。例えば複利とか永続的な制限なしの命令権みたいなのは駄目だったりする。

 ちなみに決闘の無理強いなんかは罪に問われる。あくまでも互いが自分の意思で同意することが必須。不正が発覚した場合は内容に関係なく無条件で敗北になったり。

 決闘は一般人も観戦できるように観戦用の席が用意してある。正しく古代ローマにある闘技場みたいな感じだね。

 観戦にはお金が掛かるけど、この都市の名物として受け入れられている。ギルドの収入源の一つだ。


「そこで狂戦士が戦うらしい」


「へぇ?」


 なんて驚いたふりをしてみるけど、情報としては正直微妙なところだ。

 アイが戦うところはいつも見てきたし。

 けど理由は気になるな。なんでアイはわざわざ闘技場に?


「それで狂戦士さんは何を賭けてるんですか?」


 マスターは「それがな……」と、勿体ぶるように言ってきた。

 正直意味が分からなかった。

 聞き間違えたのかと本気で思った。


「……負けた相手と一晩寝る?」




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