魔王を倒した異世界勇者。強制送還されそうになったのでこっそり姿を消すことに~でも凱旋したパーティーメンバーの皆の様子が何だかおかしいんだけど?~
猫丸
第1話 強制送還
煌びやかな装飾を施された玉座の間。
そこで国王のルーブル・レヴィ・ベルナルドが勇者に関する報告を聞いていた。
深紅の絨毯の上で膝をつくのは勇者を陰から観察していた暗殺者だ。
「それで? 勇者は確実に送還したのだな?」
「間違いないかと」
くつくつと顎髭を擦りながら王は黒い笑みを浮かべる。
「そうか、もうよいぞ。下がれ」
「ハッ」
瞬時に消え去った暗殺者。彼のレベルは60。この国ではAランク冒険者でもレベルは50がいいところだ。そんな男が確信を持って「間違いない」とまで言うのだから計画は成功したのだろう。
この国では勇者召喚というものが行われていた。
異世界の人間は召喚する際に女神より特別な能力を授かると言い伝えられている。
加えてステータスも非常に高いことが多く、その例に漏れず今回呼び出した勇者【ヤカガミ】も非常に高いステータスと強力なスキルを保有していた。
だが、魔王の居ない世界の勇者なんてものは邪魔でしかない。平和になった世界に勇者など要らない。必要なのは優れた統治者だ。
下手に発言力の高い人間を残しておくと今後の国家の統治で不穏な種を残すことになるだろう。
そのための送還。それ故の騙し打ちだった。
「しかしよろしかったのですか? 勇者ヤカガミのパーティーの人間たちが早まった真似をするのでは?」
勇者ヤカガミには見張りとして召喚国側からパーティーとして何人かの人間を預けていた……のだが、何故かヤカガミはそれを拒否していた。
何か不穏な物を感じ取ったのか、勇者の居ない今となっては分からない。
ただヤカガミは旅の道中で数人の味方を見つけていた。
暗殺部隊による報告によればどうやらヤカガミに心酔していた者たちだ。
確かに死罪覚悟で飛び込んでくるかもしれない。
もし強制送還が王族の仕業だとバレればの話だが。
「ふんっ、心配には及ばんだろう。さすがにそこまで馬鹿ではない。念を入れ護衛も強化しているしな」
そう言って国王は話は終わりだと玉座から立ちあがった。
その後ろ姿は全てが思い通りにするんでいるのだという自信に満ちていた。
しかし――そんな彼を冷たい目で見る人間がいることには終ぞ気付かなかった。
◇
「性格悪っ! 性格最悪とか通り越してもう害悪だね」
異世界人である僕にとってはいい迷惑だ。
あ、自己紹介がまだだったね。僕の名前は【八鏡連夜(やかがみれんや)】。
この世界では勇者ヤカガミって呼ばれてるよ。パーティーの皆からは親しみを込めてレンヤって呼んでもらってる。
「しかしどうしたもんか……このまま姿見せても絶対いいことにはならないよね」
僕が使っているのは隠密スキルだ。効果はシンプルで誰からも姿を見えなくするスキル。
あまり強くないスキルではあるものの、僕のステータスを考えたらまず見つかることはないだろう。
というわけで誰にも見つからない僕は魔王を倒した時に強制送還されそうになった際ちょこっと偽装工作をしてこの世界に留まっているというわけだ。
さすがに彼女たちに何の挨拶もなしに帰るわけにはいかなかった。
勇者だと証明する指輪を渡されていたんだけど怪し過ぎたもんね。案の定送還の為の触媒だったし。
「っと、そろそろ彼女たちが帰ってくる頃だな」
城下の方から聞こえてくる銅鑼の音と大歓声。
英雄の凱旋だね。
ひとまずはそれを確認してからだ。
方向性としてはほとぼりが冷めるまで隠れてるって感じで。
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