第2話 凱旋……あれ?
巨大な馬車に乗って帰ってきた彼女たちは僕のパーティーメンバー達だ。
国民の大歓声によって大地を劈くようなお祭り騒ぎになっている。
「聖女様ー!!」
「ルーシャ様ー!」
聞こえてくる名前で一番多いのは治癒魔法を得意とする聖女エリスだった。
金糸のようなロングヘアーが陽光を反射して輝いている。
彼女には何度も助けてもらった。片腕ごと吹き飛ばされた時には泣きじゃくりながら治癒してくれたっけ。
高熱でうなされた時にも一晩中看病してくれたし、かすり傷を負った時にもパーフェクトヒールなんて使ってくれて、深爪をした時にはリヴァイヴまでかけてくれたし。
……いや、後半はやり過ぎだね。旅が進むにつれてどうにも過保護になっていったんだよね彼女。
出発の時にはお淑やかな年上の女性って感じだったんだけど……
なんにせよ旅の中で良く微笑んでくれたのが印象的だった。
彼女の優しい陽だまりのような笑顔に何度助けられたことだろうか。
お、噂をすればだ。
「聖女様ー!!」
「聖女エリス様ー!」
「聖女様ばんざーい!!」
彼女の姿が見えると王都ルーブルではさらなる大歓声が響いた。
そこでは国民に優しく手を振り笑みを返すエリスの姿が――
「…………」
なかった。あれ? エリス? なんか疲れてる?
表情筋まったく動いてないけど。あの、皆名前呼んでくれてるよ? ほ、ほら、応えないと。
「…………」
ぴくりともしないね。あ、ちょっとだけ手を振った。ほとんど一瞬だったけども。
もしかして笑顔さえ浮かべれないほど疲れてるんだろうか? それもそうだ。さすがに攻め込んでくる魔族をどうにかしてさらには魔王を討伐するなんて一大事の後に疲れがないわけないもんね。
「素敵ー! ルーシャ様ー!!」
お、エリスの後ろにいるのはエルフの射手であるルーシャだ。
後方からの援護射撃を得意とする弓の名手。
彼女とは衝突も多かったけど、魔王城に差し掛かる頃にはそんな態度も軟化してたな。
あんなにツンツンしてたルーシャだけど、実は花が好きで良く僕に花飾りをプレゼントしてくれたっけ。
その度にパーティーの皆と何故か言い争ってた。ふふ、懐かしいなぁ。
「…………」
あれ、彼女もどうしたんだろう? まさに絶望って顔してるけど。
虚空を見つめたまま瞬きすらしていない。
いつものツンツンした態度もなりを潜めてチャームポイントのツリ目からはハイライトが消えていた。
え、どうしたの?
「死にたい……」
あの……今絶対に聞こえちゃいけない言葉が聞こえた気がしたんだけど。
この歓声の中で聞きとれたのは僕くらいだろうからたぶん大丈夫だとは思う。でもまさか凱旋した英雄の口から「死にたい」だなんて……い、いや、きっと聞き間違いだろう。
僕のスキルも間違える時があるんだね。ははは。
「ノアちゃーん!!」
いつも可愛らしい笑顔を振りまいていた銀狼獣人のメイド少女ノア。
彼女の甲斐甲斐しい補佐によって僕たちは快適、は言いすぎかもしれないけど、なんとか過酷な旅を完遂することが出来たんだ。
いつも細かなことに気付く彼女は僕の事を実の兄のように慕ってくれてたっけ。
奴隷だった彼女を助けたのは僕だけど、あんなに懐いてくれるなんてね。
彼女の明るい姿に何度元気付けられたか。戦闘能力は一番低かったものの、困った町の人達の頼みごとを良く聞いていて、人望も厚かった。
僕達のパーティーのマスコット的存在だ。
「…………ぐすっ」
なのになんで体育座りなの? 今すすり泣く声が聞こえた気がしたけど……チャーミングな獣耳と尻尾もいつもの毛並みからは考えられないほど萎びていた。
いやいや、皆何やってるの!?
凱旋なんだよ!? ここは国民の皆を安心させてあげないとさ、ほ、ほら! 今後の国営に響くんじゃないかなーって思ったり。
ほら! アイを見習ってよ! ちゃんと手を振ってるよ!?
戦士として僕達をいつも引っ張ってくれた彼女は「アタシは自分より弱い男になんざ興味ねぇ!」なんて言ったりして。
最初は男勝りな彼女だったけど、やっぱり女の子だったんだね。魔王戦の前には可愛らしいスカートなんて履いて「この戦いが終わったら話がある」だなんて。
きっと改まってお礼を言ってくれるつもりだったんだろう。思えば最初の出会いは過激だったからね。これも懐かしい思い出だ。
「…………」
ん……? もしかしなくても顔がまったく笑ってない……?
なんかこの世の全ての負を凝縮したみたいな顔してた。心なしか艶やかだった赤いショートヘアもどこかささくれているようだ。
え、何皆? 地獄から帰ってきたの? 魔王との戦いそんなに辛かった?
確かに激戦だったし死闘だったとも思うけど……
御者の人が顔引き攣らせてるんだけど。
あれ? これ英雄の勝報を祝ってるんだよね?
凱旋……あれ?
まさか僕が居ないから皆も気に病んでくれてるんだろうか。
……いや、だとしても付き合いが1年ほどの僕の為にあそこまで気力を失うなんてのはさすがに……
もしかして魔王から呪いは……鑑定しても異常なし。状態異常はなく体力も全快していた。
彼女たちは本当にどうしたんだろうか。
「ハァ……」「死にたい……」「ぐすっ……」「もうやだ……」
おぉい!? またなんか聞こえたよ!?
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