第13話:岩塩窟

 俺は未開地の魔境部分で塩を探していたのだが、全く魔獣が姿を見せなくなった。

 以前なら問答無用で襲いかかって来ていたのに、おかしなことだ。

 塩を探しに海という場所と往復した時には、魔獣も獣も襲いかかっていた。

 何を基準に魔獣が俺を避けるようになったのか、全く分からない。

 不思議だとは思ったが、深く考えるのは苦手なので直ぐに忘れて塩に集中した。

 俺の役目は塩を探してターニャを幸せにする事だ。


 塩を探し出して七日目に、ある山の奥深くに塩の気配を感じた。

 これでターニャを救うことができると思うと、ほっとすると同時に、何が何でも塩の場所まで掘り進めなければいけないと思った。

 俺は神の言っていた先祖返りの力を使いたいと心底思った。

 神の言葉を信じていない訳ではないが、自分が神だとは思えなかった。

 

 俺は一心不乱に穴を掘り、ひたすら塩のある場所を目指した。

 俺は自分に神だと言い聞かせ、その力が手に宿っているとも言い聞かせた。

 その力を全力で発揮して、ひたすら両手で土を掘った。

 大きな岩に進路を邪魔された時には、両手には神の力が宿っていると改めて言い聞かせ、難なく岩を打ち砕くことができた。


 丸一日かったが、俺の手が最初に岩塩を掴んだ。

 無色透明の塊を手に入れることができた。

 今回はあまり獣も魔獣も狩れなかったので、父上から渡された魔法袋一杯に、手当たり次第に砕いて集めた岩塩を詰め込んだ。

 俺は喜び勇んで領都に戻って父上と母上に岩塩をお見せした。


「よくやった、ボドワン、これで我が領地は安泰となった。

 明日は騎士団に奴隷を護衛させて岩塩窟へ送る。

 騎士団長の報告を待って、岩塩を領内だけで消費するのか商品にするのか決める。

 まあ、どちらにしても独立を宣言して大公を名乗る事になる。

 ボドワンも公太子となるのだから、儀式の挨拶を覚えてもらうぞ」


 父上が無理無体を言いだされた。

 俺に儀式で話す言葉を覚えられるわけがない。

 何時ものように逃げ出したいが、ターニャを護るために母上が大公を名乗り独立すると言われた以上、絶対に逃げ出すわけにはいかない。

 命懸けで言葉を丸暗記しなければいけないのだろうが、覚えられるだろうか……


「閣下、スティン辺境伯閣下から救援要請の使者が参りました。

 ザリフト皇国が攻め込んできたそうでございます」


 おのれ、ダネルレ皇帝、ターニャの事を知っていながら黙っていた恨み、絶対に忘れずに復讐してやる。

 ここでわが友デヤウスのスティン辺境伯家を襲ったのが、運の尽きだ。

 必ずぶち殺してやる。

 いや、簡単には殺さず、フレッドのように永劫の苦痛地獄に叩き込んでやる。

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